東京五輪「1年延期」決断までの知られざる裏側 優柔不断な態度に各連盟から批判が続出した
暑さ対策騒動から半年もたたない2020年2月、IOCがいかにテレビ・ファーストであるかを証明する問題が新たに起きた。世界を襲った新型コロナウイルス流行への初期対応である。
AP通信は、ディック・パウンドIOC委員の言葉として、新型コロナウイルスの影響で東京五輪を中止するかどうか、IOCは5月末までに判断する可能性がある、と伝えた (2020年2月25日)。この頃は、日本だけでなく世界中が感染拡大期にさしかかっており、選手や観客の感染リスクを考えれば、当然の配慮とも言えた。
しかし、いきなり中止であって、延期という選択肢がなかったのはなぜか。延期の可能性について、パウンド委員は「10月にやるとは言えない」と否定。理由のひとつに「テレビ中継の時期」の問題を挙げた。2~3カ月延期した秋の開催は、プロと大学のアメリカンフットボール、ヨーロッパのサッカー、さらにバスケットボール、野球、アイスホッケーなど、すでに放送スケジュールが満杯である北米のテレビ局を満足させられない。
そういう記者の見立てを踏まえたうえで、パウンド委員は「人々がオリンピックに期待する包括的な中継は困難」と述べた。要は、アメリカNBCの都合がつかないから、延期はあり得ないというのだ。さらに、1年後の開催についても、「すべての国際大会のスケジュールと調整しなければいけない」と当時は疑問を呈していた。
五輪開催には巨額の放送権料が絡む
パウンド委員は一連の報道で「IOC最古参のメンバー」と紹介されたが、それは彼の一面に過ぎない。IOCが1995年、アメリカ三大ネットワークのNBCと複数大会を契約し、巨額の放送権料引き上げに成功した交渉担当チーム「サンセット」を率いたやり手がパウンド氏だ。
東京都の小池百合子知事は「IOC委員1人の個人的見解」と沈静化を図ったが、パウンド氏がIOCとテレビ局双方を代弁できる立場にあることを見誤っていたと言わざるをえない。彼は相当な「大物」なのである。
そのパウンド氏の発言が意味するのは、巨額の放送権料と引き換えに、IOCは、世界のスポーツ興行の歯車に組み込まれてしまっているということだ。それゆえ、予定通りの開催は、IOCにとって至上命題だったのだろう。
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