東京五輪「1年延期」決断までの知られざる裏側 優柔不断な態度に各連盟から批判が続出した

拡大
縮小

一方、日本の組織委も迷走していた。2020年3月10日、組織委の高橋治之理事が、アメリカ経済紙「ウォールストリート・ジャーナル」のインタビューに答えて、「1年か2年の延期が現実的な選択肢」と発言。これに森喜朗組織委会長が、「とんでもないこと」と猛反発する一幕があった。

高橋理事は電通の元専務で、オリンピックビジネスに深く関与してきた人物だ。バブルの寵児として知られた故・高橋治則イ・アイ・イ社長の実兄でもある。

延期は施設維持費など税金が投入される

高橋発言の狙いは理解できる。オリンピックが中止や無観客試合となれば、企業広告の減少は避けられず、組織委は赤字になる。新型コロナウイルス流行の収束が見通せない状況を冷徹に見据え、議論の俎上に「延期」をのせ、中止への流れを防ごうとしたのであろう。

『オリンピック・マネー 誰も知らない東京五輪の裏側』(文春新書)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

3月23日、安倍首相は国会で、延期を容認すると発言。森会長も、「いろんな声があるのに『最初の通り、やるんだ』というほど我々は愚かではない」と豹変し、延期への流れを作る。そして3月24日、安倍首相がバッハIOC会長と電話で会談し、延期で合意したのである。

ただし、当時、政府内でオリンピックを延期、もしくは中止した場合の財政負担が極秘裏に試算され、「中止」が最も少ないという結論が出ていた。延期となれば、施設維持費などさらなる税金が投入されることを忘れてはいけない。

後藤 逸郎 ジャーナリスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

ごとう いつろう / Ituro Gotoh

ジャーナリスト。1965年、富山県 生まれ。金沢大学法学部卒業後、 1990年、毎日新聞社入社。姫路支 局、和歌山支局、大阪本社経済部、 東京本社経済部、大阪本社経済部次 長、週刊エコノミスト編集次長、特 別報道グループ編集委員などを経て、 地方部エリア編集委員を最後に退職。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
猛追のペイペイ、楽天経済圏に迫る「首位陥落」の現実味
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
ホンダディーラー「2000店維持」が簡単でない事情
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT