ただ、芸能人たちが「甘い世界ではない」「簡単に稼げるとは思っていない」と考えていながらも、「将来へのリスクヘッジになれば」という思いを抱えているのも、また事実。ネットの発達で徐々にエンターテインメントのマネタイズがこれまで通りにはいかなくなり、芸人ならテレビと劇場、俳優ならドラマ、映画、舞台、アーティストならリリースとライブだけの活動をしていくことに不安を感じている芸能人は多いようなのです。
近年、ダウンタウンなどの大物芸能人が動画配信サービスのコンテンツに出演する機会が増えました。しかし、動画配信サービスは、「制作スタッフがいて、その媒体から報酬を受け取る」という意味では、テレビ番組とほぼ同じ関係性であり、不安の解消にはつながりません。芸能人たちにとっては、たとえ少額の収入しか得られなくても「自らの発信で報酬を受け取る」という、これまでとは異なる形をはじめることが重要なのです。とりわけ収入源がテレビに偏っている芸能人は新型コロナウイルスによる不安が大きいだけに真剣度が高いのでしょう。
知人のバラエティ放送作家が、「芸能人たちがいちばんショックを受けているのは、緊急時のエンターテインメントは生きていくうえでの優先順位が低く、真っ先にカットされることがハッキリしたこと」と言っていました。スタッフならエンターテインメント以外のコンテンツを作ればいいのですが、芸能人はそのようなシフトチェンジができません。芸能人たちは新型コロナウイルスの感染拡大によって、「自分はエンターテインメントの世界でしか生きていけないんだ」「自分はそれでもこの世界で生きていきたいんだ」という現実を突きつけられているのです。
だからこそ心のよりどころになっているのが、SNSのフォロワー数やYouTubeの登録者数。芸能人たちにとってこれらの数字は、「熱心なファンがいること」「自分は旬のタレントである」ことの裏付けであり、作り手からキャスティングされる可能性を上げてくれるものなのです。これといった受賞歴や、自他ともに認める代表作のない芸能人が、「少しでもブランディングにつなげたい」という思いからフォロワー数や登録者数にこだわり、積極的にネット発信するのは当然でしょう。
人前に出続けなければ感覚が鈍る
主に芸人などのバラエティタレントたちから聞いたのは、「トークスキルや頭の回転が鈍るのが怖いからネットで発信している」という声。もともと芸人には、「報酬がほとんど出ない舞台や先輩との飲み会にも出てトークや頭の回転を磨き続けておいたほうがいい」という考え方の人も多く、それらが叶わない現在はネットツールが最適な場なのでしょう。特に芸能人としての活動で食べていけるようになったのが遅い30代後半のある芸人は、「とにかく何かやっていないと落ち着かない。ヒマすぎると売れなかった時代を思い出してしまってよくない」と言っていました。
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