中でも苦戦を強いられたのが第一三共だろう。第一三共はワクチンの受託販売をしていたが、本格的に参入するために北里研究所と2011年に合弁会社「北里第一三共ワクチン」を設立し、さらに2012年にはワクチン大手の英GSKとも合弁会社「ジャパンワクチン」を立ち上げ、国内外の企業とタッグを組んだ。2017年度にはワクチン事業の売上高が420億円に達した。だが、それ以上に事業リスクに苦しめられた。
まず、北里第一三共が国の承認規格に見合わないワクチンを製造したことから、自主回収に追われた。これが発端となり、219億円の減損を計上。400億円の増資で立て直しを図ったものの、思うようにいかず2019年4月には北里第一三共は解散に追い込まれた。
さらに、ジャパンワクチンも子宮頸がんワクチン「サーバリックス」の定期接種が副反応問題が起きた。ほかにも新しいワクチンが定期接種にならないなどの誤算が続き、結局、2019年4月に解散した。
中小ばかりに戻ってしまったワクチンメーカー
大手製薬企業はワクチンメーカーをマネジメントできず、「産業ビジョン」がめざした産業育成は頓挫した。厚労省の「ワクチン産業ビジョン推進委員会」に委員として参加していた国立病院機構本部総合研究センター長の伊藤澄信氏はこう説明する。
「ワクチン開発は産官学の英知を結集することが必要で、業界の意見も聞いてきたが、技術的な問題だったり、経済的なインセンティブが明確ではなかったりで、残念ながら進捗が思うにまかせていません」
結果的に、中小ばかりに戻ってしまった今のワクチンメーカーに、今日の新型コロナウイルスに対応するだけの体力はあまりないようだ。ワクチンメーカーである旧化学及血清療法研究所から事業継承したKMバイオロジクスの広報は、ワクチン開発について、「技術的な面で検討はしているが、具体的に公表できるものはない。ただ、設備や資金が必要になるから、提携も含めて検討している」と話す。
ワクチン製造部門を持つデンカも同様だ。「いまは新型コロナの検査キットに注力しており、経営資源は限られている」と広報が状況を説明した。
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