妊活延期かコロナ禍で決断迫られる夫婦の苦悩 日本生殖医学会の声明に動揺する人たちも

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LINEなどを活用し、妊活や不妊治療に関するアドバイスを利用者に届ける妊活コンシェルジュサービスの「ファミワン」では、コロナの影響でこの先の不妊治療で困っている人に向けて、妊活自由相談を無料で提供することを決めた。

不妊症看護認定看護師や臨床心理士、胚培養士など30人体制で、LINEで相談を受け付けている。日本生殖医学会の声明に先駆け3月28日からスタートし、開始から2週間で登録者数は8倍、相談件数は9倍に増えたという。

「もともとのユーザーは、妊活を始めて間もない人や婦人科未受診の人が7割を占めていたが、新規登録者は、すでに不妊治療をしている人や体外受精へのステップアップを考えている層が多い。また質問内容も、これまでは相談者本人の悩みが中心だったが、今は旦那さんや周囲からの意見で迷っていたり、本人は続けたいけれど反対されているなどの内容が増えている」と同社代表の石川勇介氏はいう。

「クリニックにも相談窓口はあるが、現状ではまずは声明が出たことを伝えている段階。アナウンスをして、患者に委ねているところが多く、これを機に不妊治療について話し合いの機会を持つ夫婦が増えている。コロナを機に治療を止めるか、一気にステップアップして体外受精に踏み切るか、妊活を見つめ直す期間になっている」(石川氏)と言う。

無料相談の開始当初は4月末までを予定していたが、5月末まで期間を延期することを決めた。

妊娠中の人も不安を抱える

不妊治療中の人だけではなく、妊娠中の人も不安を抱えている。6年以上にわたる不妊治療と3度の流産の末、妊娠した山口佐也子さん(仮名、34歳)は、待望の妊娠のなかで不安な日々を過ごしている。

「通院しているのが総合病院なので、検診のたびに不安があります。私は不育症予防のため、現在も投薬が続いているので総合病院で産むしか選択肢がない。コロナの感染者は受け入れていないようですが、それもいつまで保てるのか……。また、妊婦への感染による影響についての症例や情報が少ないもの不安」だという。

不要不急の外出自粛やマスク着用、手洗い、うがい、消毒はもちろん、不特定多数の人と濃厚接触の可能性があるネイリストの仕事は休業した。

前出の桜井氏によると「(同クリニック周辺の)分娩施設で出産する5人に1人が不妊治療患者。今から妊娠する人の出産予定日は12月以降になるため、年末から来年にかけて、出生率の低下が予想される。

今は不妊患者さん向けに制限がかかっているが、これから広く一般に浸透していき、『今は子どもを産むタイミングではないよね?』という空気が広がっていくことは心配だ。しかし、それ以上に妊婦が感染し、重症化に至れば医療機関の負担となる。医療崩壊だけは絶対避けなければならない。さらにコロナウイルス感染の妊婦を受け入れられる産科施設は限られている」。

連日報じられているようにコロナ関連では課題が山積みだが、これから生まれてくる子どもたちのことも、真剣に考えていく必要がある。

本連載「不妊治療のリアル」では不妊治療の体験について、お話しいただける方を募集しております。取材に伺い、詳しくお聞きします。こちらのフォームにご記入ください。
吉田 理栄子 ライター/エディター

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よしだ りえこ / Rieko Yoshida

1975年生まれ。徳島県出身。早稲田大学第一文学部卒業後、旅行系出版社などを経て、情報誌編集長就任。産後半年で復職するも、ワークライフバランスに悩み、1年半の試行錯誤の末、2015年秋からフリーランスに転身。一般社団法人美人化計画理事。女性の健康、生き方、働き方などを中心に執筆中。

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