妊活延期かコロナ禍で決断迫られる夫婦の苦悩 日本生殖医学会の声明に動揺する人たちも

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「昨年12月に有名な不妊専門病院に転院して、時間とお金をかけ、投薬で体調を整えてきたところです。そんなタイミングで簡単に中断を決められない。周りからは若いからすぐできると言われますが、若くてもできないときはできません。1回ごとが勝負なのに、妊婦にも使用できる新薬なんて、いつになるかわからないのに待つことはできません」

森下さんが通院するクリニックでは、患者の意思を尊重してくれるが、治療を継続する場合は夫婦それぞれの治療継続の同意書が必要だ。また、病院の受付時間は短縮されている。

不妊治療を控えることを意図したものではない

日本生殖医学会は「今回の会員向け声明は、一般市民、とくに不妊治療を受けている女性の方々に妊娠を控えていただくことを意図したものではない。最終的にどのような治療が選択されるかは、患者さんと主治医の判断に委ねられるべきと考えている」とのことだが、実際には治療延期を決めた病院も少なくない。

例えば、順天堂大学医学部附属順天堂医院では、タイミング指導や人工授精も休止、現在排卵誘発を行っている人からの採卵はすべて胚凍結し、新たな排卵誘発は休止。胚移植や人工授精などの休止のほか、子宮鏡検査や子宮卵管造影などの検査さえも行わない方針だ。

そのほかの大学病院などでも、類似の措置を取っているところも多い。クリニックでは治療延期を推奨しつつ、患者の希望や要望を聞き、採卵・胚凍結まで対応するなど、独自で対応策を講じている。

コロナ対策として2月から高度生殖医療説明会の開催をセミナー形式からオンライン開催に変更した産婦人科クリニックさくら(神奈川県横浜市)でも、学会の声明が出された4月1日以降、順次患者さんに説明し判断を委ねている。

「声明の内容を説明して、治療を継続するのは1割程度。発表直後の4月3、4日に胚移植(受精卵を子宮に戻すこと)が予定されていた患者さんも、4人中3人は移植を中止した。継続を決める年齢はさまざまだが、まだ時間に余裕のある20代は延期、40代は継続の傾向が強い」と同クリニック院長の桜井明弘氏は言う。

「体外受精ではいざ胚移植をしようと思っても、子宮内膜の厚みが足らずその周期の移植を見送ることは珍しくない。いざ再開したときになるべくいい状態で再開できるよう、準備できることはある」(桜井氏)と、延期する場合には、妊娠のしやすさに影響する良性の乳酸菌を調べる子宮内フローラ検査や、血流改善を目的とした理学療法など、今できることをアドバイスしている。

また、タイミング療法や人工授精の人も、基礎的な月経周期、排卵周期を取り戻すことを目的としたカウフマン療法など、体質改善などの期間に充てるなど時間を有効に使う方法もあるという。

ただ、タイミング療法や人工授精の患者さんの中には、これを機に体外受精にステップアップすべく、採卵に踏み切る人もいるそうだ。

「妊娠している人がコロナに感染すると危険度が増すため、声明は妊婦のリスクを下げることと医療崩壊を防ぐことが目的。採卵自体に問題はないと当院では考えている。受精卵は凍結すれば劣化しないことも、高度生殖医療のメリット」(桜井氏)と、少しでも若く状態のいい受精卵を治療延期している期間に保存しておき、コロナが収束した後に子宮に戻す胚移植をすることを前提に、延期を決める人もいるという。

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