「接触8割減」実現には非正規の救済が不可欠だ 近い将来「個人事業主」扱いにされる危険も

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ところで、テレワークが可能な職種は基本的に頭脳労働であり、今回のコロナ危機が結果的に格差を拡大する方向に作用している、そうした懸念はアメリカでも出ています。ですが、日本の場合は同じ頭脳労働のオフィスワークでも、正規雇用と非正規雇用に分かれているところが問題です。

非正規の人々をどう救済していくか

特に非正規雇用の場合は、タスクを計画的に与えられるというよりも、業務の位置づけが「補助的」だということにされており、その都度作業を指示される形態となっています。

そうなると、作業の中身は十分に頭脳労働であり、十分に完結性があるのに、無計画な発注側の要求に応じることで従属し、また物理的にはオフィスで時間拘束を受ける、その拘束に対する対価として給与が払われるという構図になっています。

ですから非正規の場合は、作業自体は頭脳労働なのに、組織の都合で出勤は必須、また裁量性はゼロ、従ってリモートは不可能という位置づけが多いようです。また、仮に計画的にタスクを振る運用ができたら、リモートの非正規は、今度は管理監督がないことを理由に「労働者ではなく個人事業主」にされてしまうという問題もあります。

この「非正規はリモートがしにくい」という問題は、本来であればこの4月から厳格に適用される「同一労働、同一賃金」を実現する中で、あらゆる差別が禁止される中から、正解を見つけなくてはならない問題のはずでした。ですが、それができる前にコロナ危機が起きてしまいました。とにかく、危機の中でいかに非正規の人々を救済していくかは大きな課題です。

非正規にも裁量を与え、リモートで着実に実績を上げていくようにする、これによって雇用も処遇も守ることが基本です。そして、結果的に正規雇用と同等あるいはそれ以上に成果を上げている人材は、管理職候補となるかどうかに関わらず、正規雇用と同じ処遇をしていくのが正道と思います。

冷泉彰彦(れいぜい あきひこ)/作家・ジャーナリスト
ニュージャージー州在住。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。
「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

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