保守系全国紙「デイリー・テレグラフ」は、外出禁止令の下で暮らす読者に向けて「あなたは1人ではない」という名前を付けたニュースレターを配信し、このニュースレターを活用した販売促進キャンペーンによって、購読者を前月比で266%増加させた。全国紙と地方紙合わせて70紙を発行するリーチ社も、同社傘下の新聞のウェブサイトへのアクセスを急増させている。
しかし、ウェブサイトへのアクセス増加を喜んでばかりはいられない。
イギリスの新聞界は、1990年代半ば以降、日本同様、「新聞離れ」が進んできた。国民はネットでニュースにアクセスするようになり、紙の新聞の発行部数は減少の一途をたどってきた。どの新聞もウェブサイトに力を入れざるをえなくなったが、サイト上の広告収入では紙の新聞の部数減少によって失われた広告収入を補うまでには至らない場合がほとんどだ。
広告収入が激減
そこに到来したのが、今回の新型コロナと外出禁止措置である。外に出て新聞を買う人、手に取る人が大きく減り、広告収入も激減した。
シンクタンク「イーコンサルタンシー」の調べによれば、3月時点で、企業はマーケティング費用の90%を保留中だという。また、企業はコロナウイルス関連の記事とともに自社の広告が出ることを嫌い、「コロナウイルス」を「ブラックリスト化」していた。これによって、5000万ポンド(約66億円)相当の収入が失われたといわれている。
「電子版の購読者が減った場合、経営に影響が及ぶまでには若干のタイムラグがある。広告収入が減れば、その影響は瞬時だ」(テレグラフ・メディア・グループの幹部談)。
イングランド地方南西部で発行を続ける無料新聞「パーベック・ガゼット」は、その運営費を広告収入でカバーしている。外出禁止令で広告収入が80%減少し、「もう発行できない段階にある」(ニコ・ジョンソン編集長、プレス・ガゼットより)という。
新聞社が主催するさまざまなセミナーの収入も消え、サッカーを含むスポーツの試合が開催中止となったことで、試合結果の詳細を読むために新聞を買う需要が縮小した。
メディアの調査会社「エンダース・アナリシス」は、外出禁止措置によって、イギリスの新聞界は約3億3000万ポンド(約437億円)の減収になると見込む。約2000人の自宅待機者は「5000人にまで増える」と新聞アナリストのダグラス・マッケイブ氏は予測する。
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