地方の医師が訴える医療現場の切迫した危機 物資不足やオンライン診療など課題は多い
――今は都心の医療現場の方が厳しい状況にあると思いますが、地方の医療現場にはどのような影響がありますか。
都心の医療現場の余波はドミノ倒し的に地域にも及んでいきます。なぜなら、地方の病院は東京や大阪などの大都市から医師を非常勤で派遣をすることで成り立っているところが多いからです。
ところが、今は東京などの都市から地方へ医師を派遣できなくなっています。
北海道や東北地域でも整形外科や、麻酔科といった科は東京など関東圏からの医師に依頼をして、体制を保っているところが多いのですが、今回は移動自体を許されていないところも多く、そのしわ寄せは患者さんにいきます。関東近郊エリアでも眼科、皮膚科、泌尿器科などの医師は、都市から派遣される非常勤の医師でカバーされているところが多く、このままだと医療提供が滞るかもしれません。
僕が3ヶ月の短期研修をさせてもらったオーストラリアでは、もともと広大な土地に医師が少ないということもあり、臓器専門医のほかに、「GP(General Practitioner・総合診療医)」と呼ばれる医師の育成に力をいれています。彼らは歯科以外を幅広くカバーする医師です。
まずは総合診療医に相談をして、専門的な医療が必要だと診断されたら専門医に診てもらうという仕組みになっています。
総合診療医は今の日本の地方のような状況では強みを発揮できると思いますが、日本では総合診療医が育っていないので、こうした状況で診療対応できる医師が少ないと感じます。
大都市の医療に依存する地方も危ない
――都心で感染拡大が進んでいくと、医師の派遣ができなくなり、都心からの医療提供によって成り立っていた地方の医療も共倒れになってしまうことがあり得るということですね。
そうですね。大学病院で院内感染が起きると、大学病院の医局派遣の先生たちは濃厚接触者であるとされ、関連の病院に行けなくなってしまいます。そうなると、もともと大学からの薄給でがんばっている先生たちにとっても経済的に苦しい状況になりかねません。ただし、地域で感染が広まった場合のリスクを考えると地域病院も警戒せざるをえないことも理解してもらいたいです。
――コロナウイルスの感染者数が今後ますます増えていくとなると、どのようなことが懸念されますか。
日本は、重症の患者さんを救う集中治療室(ICU)のベッド数や従事する医療者が他国と比較すると少ないので、重症患者の受け皿が不足することが心配です。すでに満床になっているところもあります。
コロナウイルスに感染した患者さんが来ると、個室管理対応ができないために、ICU全部をコロナウイルス対応にしなくてはならない施設が多くあります。つまり、それ以外の重症患者を受け入れられなくなるんです。
そうすると20人分の病床があっても、隔離しなければならないため感染者5人ほどしか利用できないといったことが生じえます。これは病院経営的にも厳しい状況です。
また、待機できる手術は後回しにする方針になっています。たとえば、日本は胃カメラとか内視鏡を使った検査がたくさん行われているのですが、使った器具はアルコール消毒を必要とします。今はアルコールが不足しているので、検査を遅らせなければならなくなる。すると、本来であれば早期で見つかっていたかもしれない癌などが、重症化してから発見されるということにもなりかねません。
今まで早期発見できていたことで助けられたかもしれない患者さんを救えなくなることを危惧しています。
ただ、日本は他国と比較すると検査する場所や機会が充実しすぎていて医療費がかさんでいました。これを機に医療を考え直す機会かもしれません。