トイレを40人で共有「ロヒンギャ」に迫る危険 難民キャンプでは、コロナ対策はほぼ皆無

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4月9日には収監施設からバス4台に分乗したロヒンギャ族がヤンゴン方面に走り去るのをAFP記者が目撃したと伝えており、近く別の裁判所でも同様にロヒンギャ族の大量釈放が実現するという情報もある。

裁判所は釈放理由を一切明らかにしていないが、世界保健機構(WHO)は国際社会に対し、刑務所などでの収監施設でコロナウイルスが集団感染する可能性を指摘して善処を呼びかけている。このため、ミャンマー政府が感染拡大防止策の一環として釈放を認めたとの見方が極めて有力だ。

今回釈放された人の多くは、政府が感染拡大を抑制するためにとった国内移動制限に反して乗り合いバスや、船でラカイン州を脱出しようとして逮捕されたケースが大半で、最高刑となれば禁固2年の容疑で裁判を待つ、あるいは裁判中の収監者だったという。

水洗い場は600人で共有

ヒューマン・ライツ・ウォッチは3月30日、「ミャンマー政府による紛争や暴力によって、住む場所を奪われた35万人に対して、ミャンマー政府は適切な感染対策を行うべきだ」とする声明を発表。

中でも、ラカイン州のキャンプは感染症が広がりやすい劣悪な環境にあり、例えば、1つのトイレを40人が共有しているほか、水洗い場に至っては1つにつき600人が共有していると警告。また、13万人が住む地域内には限られた時間しかやっていない小規模な国営の医療施設が2つしかないうえ、感染検査も行える状況にないとしている。

同声明によると、キャンプでは通常時から感染症に罹患する人が多く、キャンプ内のクリニックにインフルエンザや結核、疥癬、赤痢で訪れる人の数は、周辺地域のクリニックより突出して多く、特に結核の患者数は周辺クリニックの9倍に上るという。

また、BBCの報道によると、イギリスに拠点を置くチャリティ団体のオックスファムも、ロヒンギャの人々が適切な医療措置を受けるハードルは著しく高い、と指摘している。

「キャンプに暮らす人々は体調不良を感じても医療施設に行くのに当局の許可を得なければならず、それにも2、3日かかる。病院に行く場合も自ら交通手段を確保し、料金を支払わなければならない」としている。

これまでもロヒンギャの人々は、ミャンマー政府などにすさまじい迫害を受けてきており、コロナウイルスがこれに追い打ちをかける可能性が出てきている。ミャンマー、バングラデシュともコロナ対策で手一杯の状況だが、一刻も早く、ロヒンギャへの必要最低限の対策に速やかに取り組むことが求められている。

大塚 智彦 フリーランス記者(Pan Asia News)

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おおつか ともひこ / Tomohiko Otsuka

1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からはPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材執筆を続ける。現在、インドネシア在住。著書に『アジアの中の自衛隊』(東洋経済新報社)、『民主国家への道、ジャカルタ報道2000日』(小学館)など。

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