「閉塞の中のアイデア」こそが「市場を創る」理由 創造へのヒントは「他者への優しさ」にある

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気づくことはいろいろある。食料買い出しから帰ってきて家のドアを開けるたびに、ドアノブにウイルスがついているリスクを気にして消毒綿で拭いているが、これからずっとこれをやる気力が保つだろうか。

だからといって、自動ドアにするのも難しい。それなら指先ではなく肘を使ってドアを開けるレバーを作るとか、抗菌性素材で手の甲を覆う手甲みたいなグッズがあればいいのか、何が最適解とはまだわからないが、こんな手もある、あんな道具も使える、と考えれば、新商品文化開発のヒントになる。

これはもちろん、モノだけでなくサービスのデザインでも同じことであり、それがコロナ時代を事業者が生き延びる糧にもなるはずだ。

非常事態に対応する創造性

ネット通信インフラだってガスメーターボックスだって、すでにあった技術であり、インフラである。私たちがその気になれば、もっと使いこなせたはずのシーズであり、リソースである。それが今回、新しい活用方法を見出したのは、何があったのか。

社会にすでにあった「手持ちのカード」を新しく活用する用途の開発であり、それで生まれる新しい暮らしかた、ライフスタイル、つまりは文化の開発である。これからは、まさにここに生活の利便化・向上・洗練の伸び代がある。

著者が奉職する大学でも、普段なら、この書類は紙でどこの課の窓口に何曜日の何時までに持って来ないとダメです、という決まりが山ほどあるが、今回の事態では、それらが電子化・オンライン上ですむように見直されつつある。

それを許容された事務方の皆さまのご配慮・ご決断に大いに敬意を表するが、もし平時にこのような手続き簡素化を進めようとしたら、「手続き見直し委員会設置検討委員会準備委員会」とかが何年も議論することになったかも、と私は推測してしまう。

しかし、それを裏返せば、みんなが吹っ切れたこの状況は、いろいろな「やりかた」を見直して改善する契機でもある。こういうときこそ、新しい組織文化や消費文化を構想して、コロナ禍を生き延びるすべとして、それを真っ向確立しようではないか。

ニュースを見ていると、欧米ではコロナウイルスが蔓延するまで、マスクをつけることに心理的抵抗があったという。非言語コミュニケーションに関する本を読むと、日本人は人の目を見て感情を読むから、サングラスのように目の動きを隠すものはなんとなく怪しい印象がある。欧米の文化では人の感情を口元から読む傾向があるという違いがあるそうだ。

道理で向こうの覆面ヒーローは、バットマンも怪傑ゾロも、目元は隠しても口元は露出しているわけだ。そこを隠してしまうマスクは、下心ある悪人に見えるので、口元を覆うマスク着用はしたくないが、それではやはり唾液の飛沫が飛びやすいだろう。

それならば、透明性の高い超極細繊維で(しかもオーブンでの消毒可能な耐熱性や抗菌性を持たせて)布を織ってマスクにすれば、口元の表情が透けて見えるようにできるだろう。そして、飛沫感染のリスクも減らせるなら、欧米社会でマスクを許容する新しい文化が開発されるのではないか。

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