これらの作品は、子どもが休校期間中に映画館に足を向けないようにするためという意図もあった。しかし、感染拡大が深刻化するのと歩調を合わせるように、新作映画の公開延期の流れは加速していった。現在、映画の配給会社、宣伝会社から送られる連絡もほとんどが「マスコミ試写中止のお知らせ」「公開延期のお知らせ」といったもので、その数は現時点で100本は優に超えている。
もちろんそれに付随して、映画の出演者などが登壇する初日舞台あいさつ、トークショーなどのイベントも、自粛・中止になっている。筆者のような、イベント取材が多い映画ライターにとって、その影響は甚大だ。さらに決まっていた取材やインタビューも軒並み延期、もしくはキャンセルになってしまった。3月の仕事量は激減しており、4月以降はもっと厳しい状況になることは間違いない。
前年同期比8割減
当然、映画会社の収入にも響いている。国内大手映画会社・東宝は、2020年3月の映画営業部門興行成績を、12億224万円と発表した。これは、前年同月比19.4%、つまり8割減という衝撃の数字だ。2019年の同時期は『映画ドラえもん のび太の月面探査記』(最終興収50.2億円)が初週から6週連続で国内動員ランキング1位を記録(興行通信社調べ)するなど大ヒットを記録していたが、延期したとはいえ、3月にそれだけ稼げるチャンスを失ったことになる。
全体で見ても、2019年の国内の興行収入(売上高に相当)は2611億円に達したが、すべての映画館が休業すれば、1カ月で200億円ほどの「機会損失」となる計算だ。
反対に新作の公開本数が極端に少なかったため、1~2月に公開された映画『パラサイト~』が4月5日時点で観客動員330万人、『犬鳴村』が同108万人、興行収入13億円、『ミッドサマー』が観客動員44万人、興行収入6億円を超え、ロングランヒットする結果となっている。
単館系、いわゆるミニシアター作品も次々と延期を発表、苦渋の決断を求められた。
ベネチア国際映画祭をはじめ、世界的な評価の高い中国のドキュメンタリー作家ワン・ビンの最新作『死霊魂』も4月4日の初日公開が、6月27日に延期となった。この作品は、1950年代後半から60年代前半にかけて中国政府が行った弾圧の歴史を描き出した内容。その内容と、「上映時間8時間26分」が話題となり、2018年のカンヌ国際映画祭の特別招待作品となった。さらに昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭では大賞を獲得し、多くの人が日本公開を待ち望んでいた。
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