「出稼ぎ」にインドへとやってきた日本人
ここで少し、私自身の話をさせていただきたい。私は現在、ニューデリーに拠点を構えるインドの地場大手会計ファームに所属し、日系企業を中心に、外国企業のインド市場進出を税務・財務・法務の観点から支援している。社内のインド人同僚たちと共に、専門知識を駆使しながら、クライアントのプロジェクトマネジメントを行うのだ。
現職のポストの募集がかかったことは人づてに知った。ビジネスレベルの英語を習得しており、米国公認会計士試験に合格していたため、幸いにも私は募集用件を満たし、そのポストへ入り込めた。まさに、私はインドへ「出稼ぎ」にやって来た日本人なのである。
世間的に、私は「海外赴任1年目」(もうすぐ2年目に入ろうとしている)の人間だが、この1年で、何にも代えがたい貴重な経験を得られた。以下、私がインド生活の中で手に入れたものを、簡単にまとめてみたい。
1.裁量と責任の重み:自分で「何とかする」力
日本の大手企業の多くと異なり、入社して間もない時期から、裁量と責任を持って仕事に取り組むことが求められる。当たり前であるが、最初はインドの法律や税務の知識もそれほどなく、研修制度などというものも、私の場合はなかった。
それでも、クライアントの前に出されれば、プレゼンしなければならない。責任の所在は自分で、言い訳などしている暇はなく、何とかするほかない。しかも、相手は、誰でも名前を知っている大手企業のお偉いさんである。
相手も、プレゼンしているのが、海外赴任1年目の人間だとは思わなかっただろう……。とんでもない所へ来てしまったなと思ったが、今では、そういう場でこそ人は大きく成長するのだと信じている。
2.インドビジネスの専門家としてのバリュー
現在、インドビジネスの専門家は多くはない。ある意味ではライバルの少ない環境で、即実践の日々を過ごすことにより、短期間で「使える知識」を習得することができた。
メガバンクが発刊するビジネスジャーナルに寄稿したり、政府系機関が主催するセミナーに講師として登壇したりもした。ジャーナルを読んだ地方銀行の方から「内容もたいへんすばらしく、勉強になりました」とメールが来たときは、喜びもひとしおだった。
また、ムンバイの高級ホテルに集った大手企業の重役たちを相手に、インド会社法に関する講義を行いながら、「よく、1年目からこんなことをしているな」と思ったりもした。
使える知識やスキルがあれば、「何年目」であるかは大して意味を持たないのだな、と痛感した。ふつう初年度ではなかなかかなわないであろう、専門家としての経験を、ここにいるからこそ数多く得ることができたのだ。
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