「トヨタのベアゼロ」に象徴されるように、賃上げの状況は芳しくない。連合の集計によれば、全体の組合員加重平均は 1.94%で、昨年同期比では0.19 ポイントの減少となった。300 人未満の中小組合は 2.03%と前年同期比0.01ポイント増で8年ぶりに全体を上回ったが、これまでの賃上げが弱すぎ、大企業の賃上げが遅れて波及してきたものといえるだろう。
定期昇給分が2%近いため、2%を下回る場合、ベースアップ(基本給の引き上げ)はない、ということなのである。
賞与と異なり、生活の基盤となる基本給は、欧州などでは景気が悪くとも継続的に上昇していくのが当たり前だが、日本では2000年以降はほとんど上昇しない状態が続いてきた。安倍政権下で、企業に対する賃上げ要請が行われ、「官製春闘」と呼ばれたが、その効果も息切れしてきた。これでは先行き不安心理が高まり、ますます消費を抑制する方向に作用する。
コロナ終息後も需要の冷え込みが続くおそれ
新型コロナウイルスの問題が短期間で終わらず長引く可能性が高まってきた。長引くと、倒産や失業によって所得の失われる人も出てくるし、多くの人も所得の減少した状態が続くため、それが国内の消費を下押しする。こうしたスパイラルに陥るリスクがある。そのため、各国は大規模な財政政策を打つが、よく指摘されるように、経済活動を止めている中では効果は限定的である。
懸念されるのは、コロナ禍の終息後も需要が一部しか戻らず、冷え込んだ状態が定着してしまうことだ。人々が危機を経験した後は、すべての行動に慎重になって、消費よりも貯蓄に汲々としがちになる。企業は好不況の調整はボーナスで行えるのだから、基本給の底上げを続けるべきなのである。
海外からの旅行なども終息したらすぐに回復、とはならないことは容易に予想がつく。クルーズ船ばかりではない。インバウンド需要を期待してつくられた宿泊・外食施設などは需要が一段下がり、利用率の低い不稼働資産になってしまう可能性が高い。マンションなども過剰ストックとなるだろう。
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎経済調査部長は「パンデミックに人々が敏感になり、例えばこれまで気にしなかったインフルエンザなど、感染症の情報が出ると行動が萎縮してしまうパターンに陥るリスク」を指摘する。2000年代に入って流行した感染症のほとんどがこれまでは局地的だったが、今回は世界的な流行を経験してしまったからだ。こうした傾向も需要回復の足を引くだろう。
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