東京の感染急増が示す「隠れコロナ」蔓延の危惧 自粛疲れで移動活発化?もう一度引き締めを

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こうした背景事情からすると、東京都の感染者の急増は、このままさらに数字を伸ばす可能性を秘めている。そうなると、次に起こるのは、発症した患者の数が医療施設のキャパシティーを超えた、いわば医療現場の崩壊である。病院に行っても、人工呼吸器の数が足りなかったり、医師や看護師の手がまわらなかったりで、処置が遅れる。治療ができない。それだけ、死者も増えていく。

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このことは、SARSの現地取材の経験から繰り返し言及してきたことだが、当時は病院に入りきれない患者が、出入り口脇の外に置かれたストレッチャーの上に寝かされている光景を目の当たりにしてきた。そこで死亡した高齢者も知っている。

すでに死者の数が7000人を超え、世界で最も多くなったイタリアでは、病院に入れても、中の廊下に患者が寝かされている映像が配信されている。感染者、死者共に急増するスペインでは、スケート場が遺体安置所として利用されている。

東京都では、対応可能な病床数を最大4000床に増やすというが、オーバーシュート(感染者の爆発的拡大)してしまうと、それも間に合わない。

病院の入り口にプレハブを建てた様子(2003年、筆者撮影)

SARS蔓延の現場では、病院の駐車場にプレハブを建てて処置対応していたが、それでも収容しきれなかった。

そこに拍車をかけるのが、医療従事者の感染と死だ。

どうしても最前線でウイルスに立ち向かっているから、感染リスクも高くなる。SARSでは感染者の21%を医療関係者が占め、最も多かった。それと同時に死亡する医師も少なくない。

台湾で死亡した医大生を弔う献花台(2003年、筆者撮影)

SARSが蔓延した当時の台湾のある大学病院では、死亡した医学生を大々的に追悼していた。

また、今回のウイルスの発生源である中国武漢市では、昨年12月のうちにグループチャットで「SARSが発生している」と警告した医師が、当局によって処罰されていたが、この医師も感染して2月上旬に死亡している。

医師が現場から離れてしまうと、それだけ処置能力がダウンすることになる。26日、アメリカは感染者が8万3500人を超えた。中国を抜いて世界で最も多くなった。

特に感染が深刻なのは、人口の集中するニューヨークだ。アメリカの新規感染者の60%がニューヨーク市圏とされ、ニューヨーク州でも3月18日に12人だった死者数が、25日には285人となり、わずか1週間で約24倍になっていると報じられた。そのため、マンハッタンにある駐車場に仮の遺体安置所を設置したほどだ。

外出自粛要請を真剣に受け止めないといけない

大都市東京もそうならないとも限らない。小池知事は東京のロックダウン(都市封鎖)の可能性にも言及しているが、それを実行に移せる法的根拠はいまのところない。威勢のいいことは言っても、対応は後手後手だ。

やがて病床数が足りなくなって、延期となったオリンピックの代わりに新国立競技場に仮の収容施設が設置される、あるいは、仮の遺体安置所に利用されるなんていう悪夢は見たくない。

そうならないためにも、いまはできることをする、春の誘惑に負けず我慢することが大切な時期にある。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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