そのスズキにとって昨年は、インド市場の異変に翻弄された1年だった。
景気後退や自動車ローンも扱うノンバンクの信用不安、5月の総選挙、環境規制を見越した買い控えなど諸要因が重なり、2019年のインドの新車市場は前年比で13%も減少。スズキの現地販売も151万台と前年から14%落ち込み、業績見通しの大幅な下方修正を迫られる引き金となった。
感染が広がると食い止めが難しい
「さすがに2020年はインドの新車需要が多少戻るだろう」――。昨年秋以降はこうした期待が広がり始めていたが、それを一気に吹き飛ばしたのが今回の新型コロナウイルスだ。全土封鎖や経済活動停止で車が売れる状況ではなく、スズキが被る影響は大きい。
公表されている感染者や死亡者数だけを見れば、中国や日本、ヨーロッパ、アメリカなどのほうが事態は深刻だが、インドが抱える潜在リスクは極めて大きい。「インドは衛生状況が芳しくなく、感染が広がり始めると食い止めるのが非常に難しくなる」(日本総合研究所調査部の熊谷章太郎氏)からだ。
さらに医療体制も不十分だ。OECD(経済協力開発機構)の統計によると、インドの人口1000人当たりの病床数(2017年時点)は0.53。日本(13.05)をはじめとする先進国より少ないのは当然だが、インドネシア(1.04)など東南アジア諸国と比べても医療体制の整備が遅れている。
全土封鎖など厳しい措置によって感染者拡大を食い止めることが今の最重要課題だが、封じ込めに成功してもインド国内の景気悪化は避けられない。そうなれば、コロナショック前からささやかれていた商業銀行の経営不安が顕在化する恐れもある。
「インドは2030年には年間1000万台の市場になる。当社はそのときに半分の500万台を売りたい」。スズキの鈴木俊宏社長は、ことあるごとにそう述べてきた。長期的に見れば、引き続きインドが成長を牽引するシナリオは変わらない。しかし、そのインド事業は2020年、新型コロナウイルスで昨年よりもはるかに厳しい状況に追い込まれそうだ。
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