人気爆発「競技かるた」が直面する悩ましい問題 "全員がアマチュア"という世界で必要なこと

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楠木:確かに、ゾーンに入っていると札が光るんですよね(笑)。予測とまではいかなくても、見ている側だけに読まれる札がわかるような表示があったらいいなと思います。選手たちには極秘で、読手もあらかじめ読む順番が決まっている。読まれる札がわかったうえで動きを観察すると、選手の凄みがもっと伝わる気がします。

松川:競技人口だけではなく見る人も増やしていくためには、これまでのやり方に執着せず、楠木さんがおっしゃっているように、今後は見る側が優位に立てるカメラワークなどで満足感を与えていく必要がわれわれにはあるなと思っています。

百人一首の和歌の魅力を国内外に発信していきたい

――皆さんは今後、かるた界にどう関わっていきたいと思いますか?

末次:競技かるたの競技人口は国内外で急激に増加しましたが、これからは作品としての百人一首を鑑賞する魅力も伝えていきたいと思っています。漫画家として、競技かるたはやらないけど、「百人一首についてもっと知りたい」と思っている方の手かがりを作る余地はまだまだあるなと。選手の皆さんの中にも、実は歌の意味を知らないという方もいると思います。そんな方たちが、歌の意味という世界でもかるたと深くつながり、1枚1枚の歌を知るお手伝いができたら。そして、次の世代にも百人一首自体の魅力が伝われば幸いです。

松川:名人戦前夜祭の前に行われる講演会で、今年はアイルランド出身のピーター・J・マクミランという翻訳家の方に登壇いただいたのですが、彼が講演の中で「ゆらのとをわたる舟人かぢをたえ行方も知らぬ恋の道かな」という札の意味を解説くださったんです。それは私が一番好きな歌だったんですよ。

彼とは国籍も立場も違う。けれど、“男女が出会い、2人の恋の行方はどうなるかわからない”という、歌に込められたもどかしさは互いに理解できる。心の交流を感じたとともに、日本人ですら知らないことを理解してくださっている方がいるんだなと感動しました。

楠木:私も教壇に立っていると、百人一首の和歌そのものの魅力を日々感じるんですよね。スポーツ要素のある競技かるたの魅力とともに、1人でも多くの子たちに百人一首の奥深さを伝えたい。また、競技かるたの選手に対しては、技術面や日本文化に携わる人間が備えるべきマナーを指導していきたいです。

――楠木さんは2020年東京オリンピックの聖火ランナーに選出されたとのことですが、どのような想いで応募されたのでしょうか?

楠木:私はこれまで、競技かるたを通じてさまざまな方々とつながってきました。そのきっかけをくれた、万葉集が生まれた奈良時代から続く百人一首の魅力を若い世代にも伝えていきたい。そんな想いから、ランナーに応募しました。さらなる文化の発展を祈り、聖火台に火を灯したいと思っています。

末次:松川会長や楠木さんをはじめとした競技かるた界の皆さんは、文化の伝統を守るために邁進されています。私もより多くの方に、日々研究を重ねる選手たちの力を目の当たりにしてもらえるよう、支援を続けていきたいです。

(構成:苫とり子)

苫 とり子 フリーライター

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とまとりこ / Toma Toriko

岡山県出身。2019年4月にOLからフリーライターに転身「realsound」や「AM」に寄稿中。コラム記事やライブ、イベントレポートを得意とする。

 

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