東京にある「孤立集落」のあまりに厳しい現実 昨秋の台風で生活道路が崩落、復興作業続く

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崩落現場の様子(筆者撮影)

急峻な崖と川に挟まれた崩落現場での工事は、素人目で見ても大変であることがわかる。工事関係者らの全力の復旧作業で、ゴールデンウィークごろには仮復旧し、日原街道の通行止めが解除される見通しだ。

もっとも、路線バスのような大型車は運行不可で、完全復旧にはまだ1年半以上かかる見込みだという。それでもマイカーの通行が可能になれば、日原の人たちの不便解消につながることは間違いない。

多くの観光客が訪れる日原鍾乳洞の再開は?

冒頭でも触れたが、日原地区には関東随一といわれる日原鍾乳洞がある。日原を代表する観光スポットで、年間10万人の観光客が訪れる。ここも台風以来、閉鎖されたままだ。日原保勝会の方が内部をチェックしたところ、鍾乳洞内には被害はなかった。

だが、道路に立っていた電柱が傾いてしまい、鍾乳洞内部は停電が続いているという。その補修工事も、日原街道の通行止めが解除されないとできない。昨年10月までに7万7000人の観光客が訪れた鍾乳洞。12月までで2万人以上の観光客を失ったことになる。

崩落現場の対岸の道路の脇に1体のお地蔵さんが鎮座していた。地酒が供えられたお地蔵さんは新しい真っ赤な帽子とマフラーを身にまとい、崩落現場の復旧作業を見守っているようだった。

現場の取材を終え、奥多摩への道をゆっくりと歩きながら下っていくと、春の穏やかな日差しを浴びて紅白の梅の花が咲き誇っていた。真っ青な空を見上げると、オオタカだろうか大きな猛禽類の鳥が羽を広げて優雅に舞っている。

梅の花が咲き誇っていた(筆者撮影)

「こうした生活が長引いて、不安やストレスが溜まっている人もいます。でも、日原の住民は我慢強いから何1つ文句も言いません。今は、1日も早く復旧してほしい。それだけですね」(日原保勝会の担当者)

一極集中が加速し、東京オリンピック・パラリンピックに向けた再開発ラッシュが続いてきた東京。その片隅に、いまだに台風被害による孤立状況が続く集落があった。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログも執筆。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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