いつか起こる「南海トラフ地震」に必要な備え 「予知はできない」としても放置はできない

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東日本大震災から3日後の宮城県塩竈市(筆者撮影)

地震、集中豪雨、台風と続いた昨年の記憶がまだ新しいうちに、間もなく「3・11」から9年目を迎える。繰り返す災害、未曾有の震災から教訓を学び、日本は「次」の大震災に備えなければならない。西日本や中部を中心に、最大約32万人の死者が想定される南海トラフ地震だ。

気象庁によれば、南海トラフ地震は駿河湾から日向灘沖にかけてのプレート境界を震源域として、おおむね100~150年間隔で繰り返し発生してきた大規模地震だ。前回の南海トラフ地震の一部とされる昭和東南海地震(1944年)、昭和南海地震(1946年)の発生から70年以上が経過した現在、次の南海トラフ地震発生の切迫性が高いと呼び掛けられている。

「予知なき時代」の震災対応

この南海トラフ地震への対策強化を訴えるのが、筆者が編集協力した『必ずくる震災で日本を終わらせないために。』の著者で、名古屋大学減災連携研究センター長の福和伸夫教授だ。大手ゼネコン勤務を経て母校の名大に戻り、毒舌交じりの話術で防災を啓発する福和教授。昨年、中央防災会議で「南海トラフ沿いの異常な現象」についての対応策をまとめるワーキンググループの主査を引き受けたときはこう言っていた。

「地震が必ず来るとは言えないけれど、プレート(地下の岩盤)がズルズル滑るなど何か『気持ち悪い』現象が起こったとき、国としてどういう対応を呼びかけたらいいか。こんなことを決めるのはちゃんとした研究者にはできないから、ちょっと社会経験があって研究者っぽくない僕にお鉢が回ってきた。南海トラフが動いたら名古屋にいる僕も被災者になるわけだから、逃げられないので、腹をくくった」

想定外のM(マグニチュード)9に襲われた東日本大震災以降、日本は地震予知を“あきらめた”状態になっている。これまでは静岡県沖のプレートがゆっくりと滑るような現象が東海地震の「前兆」だという前提で、総理大臣が警戒宣言を発令するなどの制度が運用されていた。1978年に制定された大規模地震対策特別措置法(大震法)だ。

しかし、その後の観測や研究で、必ずしもそうした「ゆっくり滑り」が大地震にはつながらないことがわかった。一方で東海地震と呼ばれるものも、実はもっと広域に連動する地震の一部で、それだけを特別扱いするわけにもいかなくなった。

「東海」から「東南海」「南海」、そして九州沖の日向灘なども含めて見ると、100年から200年おきに南海トラフのどこかが動いて日本列島は大震災に見舞われている。それは戦争や政変の引き金となり、「歴史」をも動かしてきた、というのが福和教授の視点だ。

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