堀潤「私が大きな主語で語る風潮を警戒する訳」 私たちは知らないうちに加担してしまっている

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全くその通りだった。福島県は広い。本州では岩手県に次いで2番目に広い県土を持つ。原発のある浜通り、中通り、会津とぞれぞれの地域で原発事故の影響も、復興の速度も異なる。現場を訪ねながらそうした違いも伝えていたはずなのに、私は知らず知らずのうちに「福島は」という主語を使っていた。

そして、さまざまな人たちを傷つけていた。現場の努力をふいにしてしまう発言をメディアで繰り返していた。その度にSNSでは賛否の声が沢山寄せられた。「福島を忘れるな。被災地を忘れるな」「いや被災地ではない、復興も進んできた。明るい話題を取り上げるべきだ」。異なる立場からさまざまな意見が寄せられた。「差別を生んでいるのは、あなただ」。そんな声も寄せられた。その通りだ。乱暴な表現で、私は分断に加担していた。ある人からは拍手をもらい、ある人からは傷つけられたと悲しまれた。

大きな主語から小さな主語へ

それ以来だ。大きな主語ではなく、小さな主語を使うべきだと明確に思うようになったのは。

「福島県には今も多くの苦しんでいる人がいる」ではない。「福島県楢葉町のJR竜田駅前で商店を営んでいた木村さんは、今も元の場所で営業が再開できるかわからず、避難先で考え込んでしまうことがあるという」。どんなことがあっても一人ひとりの固有名詞で伝えるべきだと痛感した。100人いれば、100通りの物語がある。読者の皆さんにも投げかけたい。あなたにとって被災地とはどこですか? と。

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おそらく皆さんの胸のうちに浮かぶ景色はそれぞれ異なるだろう。ある人は原発事故の被災地、ある人は津波の、ある人は帰還困難者としてトボトボと歩くしかなかった東京。熊本地震かもしれない。豪雨災害の西日本、インドネシアやネパールかもしれない。大きな主語はとても主観的な要素を含んでいる。

大きな主語は私の暮らしの周囲で跋扈している。男は、女は、LGBTは、若者は、年寄りは、政治家は、官僚は、日本は、韓国は、中国は、と大きな主語で語ってしまう言論に溢れている。果たしてそうして語られる現場に、真実はあるのだろうか。もし意図的に大きな言葉で煽動されたら、あっという間にそこに分断を生じさせることはできやしないだろうか。これが、今、私が最も警戒している事象である。

堀 潤 ジャーナリスト、キャスター

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ほり じゅん / Jun Hori

1977年生まれ。元NHKアナウンサー、2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年米国ロサンゼルスのUCLAで客員研究員、日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。現在、TOKYO MX「モーニングCROSS」キャスター、J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター、毎日新聞、ananなどで多数連載中。

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