パナソニックの中国傾注がどうにも心配な理由

コロナショックで前提は大きく変わっている

パナソニックは、故クレイトン・M・クリステンセン氏(アメリカの元・ハーバード・ビジネススクールの教授)が提唱した既存事業の秩序を破壊し、業界構造を劇的に変化させる「破壊的イノベーション」を仕掛けられる側から仕掛ける側に転じてしまったのである。

だが、IoT(モノのインターネット)技術を活用した家電製品の商品化をめぐっては、中国、韓国メーカーも力を入れており、パナソニック製品の強い差別化要因となり成功できるという保証はない。中国人消費者のニーズを先取りし商品開発に反映するという従来どおりのマーケティング戦略で、破壊的イノベーションは可能なのか。

40年強、中国へ投資し続け構築した経営資源と蓄積した実践知、経験則を生かそうとしているパナソニックの経営陣に、今さら中国と距離を置くという心理は働かないだろう。ましてや、歴代社長も創業者の理念を死守してきただけに、現経営陣も松下幸之助氏が中国に刻んだ歴史を反故にすることはできない。

とはいえ、中国は中国共産党の方針により、突然の規制変更も起こりうる国である。このような心配は、パナソニックの経営陣にとって釈迦に説法となるかもしれない。だが、「中国で必ず成功しなくてはならない」という大義名分がある限り、それに逆らう発言は許されないだろう。その結果、中国ビジネスを楽観視するというスタンスが同社における暗黙の了解になっているのではないか。

楽観論を後押しする「巨大市場の誘惑」

その楽観論を後押ししているのは、これから中間層の需要が伸びるという「巨大市場の誘惑」である。この論理は、対中進出している日本企業に共通する常識である。少なくとも、パナソニックが中国の新工場建設を発表した「コロナショック前」までは、この常識が絶対視されていた。

ところが、コロナショック後は、見方が変わってきた。巨大市場が目の前にあるから大きな投資をし、市場を積極的に開拓する経営戦略は一見、非常に合理的意思決定であるように見える。

しかし、「巨大市場の誘惑」は中国の政治的カードであり、中国共産党の鶴の一声で、日本企業の経営が左右されることも忘れてはならない。今こそ、日本企業の経営者は、この現実を再考、洞察すべきではないか。その意味で、コロナウイルス騒動をきっかけに、「戦争を知らない社長」は、前述した清水氏の言葉を参考にしていただきたいと思う。

新型コロナウイルスの感染拡大のような天変地異は予想できたことではないだろう。ただ、パナソニックはこれまで、「大きな賭け」に出たが、ことごとく「大きな負け」を経験している。今も大きな賭けは続いている。ここでパナソニックにおける意思決定の歴史を振り返ってみたい。

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