「コロナショック」は「経済学の敗北」なのか

「リーマン後」再評価された不均衡動学の凄み

厳しめに言えば、経済現象を適確に扱えないということは、ある種の「経済学の敗北」と言えなくもない。その根本的な分析がきちんとできないまま、まさにいま私たちは「コロナショック」を迎えているというのが現実だ。

もし今回、運よくこれをやりすごしたとしても、また次のショックがわれわれの経済を襲うかもしれない。“経済現象に対する医者”であるべき経済学者にとっては悪夢かもしれないが、それほどいまの経済学者は「バブル」を苦手としている、ということでもある。

主流派(新古典派経済学)の経済学者は、第1の原理である自由放任主義による「神の見えざる手」(専門的には「一般均衡理論」)に依拠する。それによれば、価格は多少のノイズ(例えば情報不足によるミスや人間の認知バイアスなど)で紆余曲折はあったにせよ、ある決まった「適切な価格」へと必ず収斂する。

「高すぎれば買われず、買われるまでの値段まで下がるし、低すぎればすぐに売り切れてしまうため、価格は相応に高くなる」

自由に各人が利己的に振る舞えば、価格は「神の見えざる手」に導かれるように最適な水準に近づいていき、最終的には1つの理想的な価格に行き着く。

しかしバブルの場合では、通常ではありえない金額を出しても買えないことがあるうえ、逆にありえないほど安い価格でも買い手がつかないことも起きる。そこには適切な価格を指し示す「神の手」は不在であるかのようだ。第1に来たるべきはずのものが訪れない経済現象などは論外だという発想からすれば、合理的でない愚か者たちのミスとして、バブルがまともに扱われないこともしばしばだろう。

しかし、バブル現象は確かに目の前に存在するし、過去にも存在し、おそらく将来もまた起こるだろう。バブルは、それほど不合理で取るに足らない経済現象なのだろうか。

主流派から外れた異端の経済原理「不均衡動学」

「不均衡動学」は、主流派から外れた異端ではあるが、クヌート・ヴィクセル、ジョン・メイナード・ケインズの系譜につながり、岩井克人氏が統一的に数理モデル化した経済理論である。

不均衡動学の大きな特徴の1つは、バブル現象のメカニズム分析が得意であることだ。その生成過程、性質、対処の可能性と不可能性を、非常に論理的に説明する。

まず、スウェーデンの経済学者、クヌート・ヴィクセルが19世期末に他に先駆けて理論化する。独自の“均衡観”で価格が均衡しないメカニズムがあることを発見し、それを「不均衡累積過程理論」(ヴィクセルの累積過程)としてまとめる。

時代は少し下って、英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズはその画期的なヴィクセルのモデルを自身の著書『貨幣論』で踏襲(20世期初期)、そして代表作となる『雇用、利子および貨幣の一般理論』の土台としながら、さらにそれを発展させる。

そして、両者のモデルを、数理的に接合して統一的に構築し直したのが岩井克人氏の「不均衡動学」(1981年)である。その完成度は、ジョージ・アカロフ、ジェームズ・トービンといった、どちらものちのノーベル賞受賞学者に称賛され、特にトービンには「20年先駆けている」と言わしめている。

「不均衡累積過程」「不均衡動学」とは、いったいどのような性質の理論なのだろうか。なぜ学ぶべきなのか、そして、主流派の経済モデルとはどこが違うのだろうか。

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