「コロナショック」は「経済学の敗北」なのか 「リーマン後」再評価された不均衡動学の凄み

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もともと難解で知られるモデルであるため、ここでは私なりの割り切りで平易に説明することをお許しいただきたい(詳細に学びたい方は別途、岩井氏の書籍による解説を読まれることをお勧めする)。

ヴィクセルによれば、「価格が均衡するのは、そもそも特殊な場合に限られるのだ」という。需要と供給が等しいときには均衡しえるものの、そうでない場合、つまり需要と供給にギャップがある場合は、価格が収斂しないまま、時間を経るごとに一方的に価格が高くなって(反対方向だと低くなって)いき、価格に歯止めが掛からなくなる(累積的に推移する)という。

例えば、株式市場で需要(ここでは小とする)と供給(ここでは大とする)のギャップが大きくなった場合、株価が安くなったとしても売りたい人がなんらかの理由で大勢のまま減らなければ、価格は際限なく下落する可能性がある。

そして、「そもそも、そうなのである」と強く主張する。

ケインズは、「美人投票」の比喩で、人々が「人々が美人と予測する」人に投票する場合に、なにかの些細な噂やきっかけで、誰の好みかわからない人物に歯止めのかからない投票がなされる、と主張する(予期による自己循環的な場合)。

ここで「美人」を「株式銘柄」、「人々」を「投資家」、「投票」を「投資行動」に置き換えれば、株式市場の様相を解説するものとなろう。またその予期が自己実現的に達成されるならば、その予期はまた強化されるスパイラルが回り、歯止めなく進行していく。

「バブル」は“必然的に均衡しえない”過程で起こる

そして岩井氏は、その二者の理論をふまえ、市場が均衡しない動きは、こと金融市場など合理的で洗練された投機的マーケットであればこそ顕著になりやすいと指摘する。効率性を合理的に求めることは、価格に対して均衡点のような安定性(=見えざる手)ではなく、必然的に不安定さ(=累積された不均衡)を招いてしまうというのだ。そして、「安定性をもたらすものは何か」に関して、岩井氏は語る。

資本主義を純粋にしていくと、確かに「効率性」を増しますが、逆に「安定性」が減ってしまう。資本主義が、大恐慌などの幾多の危機を経ながら、曲がりなりにもある程度の「安定性」を保ってきたのは、貨幣賃金の硬直性や複雑な税制や金融投機の規制、さらには政府や中央銀行による市場介入的な財政金融政策など、市場の自由な働きを阻害する「不純物」があったからであるというわけです。もちろん、それは代償として、(中略)非効率性を生み出してしまいます。効率性を増やせば不安定化し、安定性を求めると非効率的になるという具合に、効率性と安定性とは「二律背反」の関係にある。
(『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』p.84)

とすれば、株式市場のような洗練されたマーケットにおいては、大小はあれどバブル(価格の行きすぎ)はいつも、ごく普通に、至るところにありえる、ということになる。それが小さければ遠目からは均衡のように見え、大きければバブルに見える。

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