中国当局はなぜ新型コロナ記事を削除するのか 武漢医師のインタビュー封殺に「網民」が反旗

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「方方日記」は削除されても、ネットユーザーの誰かがスクリーンショットを取って再度どこかに掲載をした。または「財新」のように独立系のメディアがブログの内容を転載して、そこから再度出まわるという形でインターネット上に残った。だが、今回の艾医師のインタビュー記事はそれ以上に異例の形で次々に転載が行われた。

当局の削除から逃れる形で、ネットユーザーたちは英語版をはじめ次々に翻訳版を作り出したのだ。その中には日本語に翻訳した日本語版や、さらに甲骨文版、モールス信号版、QRコードをスキャンして原文が見られるものも出回っている。3月17日現在、100近いバージョンが出ている。

それだけ多くのバージョンが出ていること自体が別のネットユーザーの関心を呼び、さらにいたちごっこの記事削除によってますます影響力、クリック数が増えていった。中国のネットユーザーが一斉に反発して1本の記事を支持するというのは非常に珍しい。ついには普通にその記事を読めるようになってしまった。

中国では新型コロナウイルスの感染拡大以降、かつてないほどのネット記事やブログの文章が大量に削除されている。国民全員がCCTVの番組で報道されているように、現状の感染対策に満足し、政府の恩恵に心より感謝するような雰囲気を作り出したいと政府は思っている。

しかし、新型コロナウイルスによって市民の生活は確実に苦しくなった。「方方日記」で書かれているように治療も受けられないまま死んでいく市民もいるし、艾医師のインタビュー記事で明らかになったように行政の隠蔽や、多くの医療関係者の犠牲もまた事実である。

陰の部分を伝えたメディアに市民は共感

CCTVは新型コロナウイルスとの戦いに関する光の側面ばかりをクローズアップしている。だが、真に市民の共感を得ているのは、取り上げられない影の部分を伝えている「方方日記」や一部メディアの報道だ。

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ネットの記事や文章を削除すれば、ほとんどがそのまま消えていく。しかし、影響力のある記事や文章は削除されても、のちに何らかの形で復活する。艾医師のインタビュー記事は違う言語、違う表現方式で復活しただけでなく、むしろ記事削除によって話題性を持つようになり、より多くの人の目に触れた。

中国では新型コロナウイルスとの戦いで世論が激しく変化し、情報発信の方法も多様化した。これまでのようにネット記事を削除して、官製メディアで世論をまとめるという手法はもはや通用しなくなってきている。

陳 言 在北京ジャーナリスト

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ちん げん / Chen Yan

1960年、北京生まれ。1982年南京大学卒業後、経済日報入社。日本語通訳を兼ねて日本経済、アジア経済を報道。1989年から日本に留学、1999年に慶応義塾大学経済学研究科博士課程修了。2003年に中国に帰国し、月刊『経済』主筆、『中国新聞週刊』主筆を経て、2010年から日本企業(中国)研究院執行院長。2019年1月から月刊『人民中国』副総編集長。『中国鉄鋼業における技術導入』(萩国際大学出版会)など多数の著書がある。

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