日本のヤンキー化は小泉政権から?

精神科医・斎藤環×歴史学者・與那覇潤(1)

ネオリベラリズムですらない何か

與那覇潤

與那覇:小泉政権の途中から、ネオリベラリズム(新自由主義)による格差拡大を批判することがインテリの自己証明みたいになりましたが、僕はそういう論調は本質を外していると感じていたんです。それは、竹中さん的な理屈の部分しか見ていない。

斎藤:格差の広がり自体は小泉内閣以前から出ていたし、あそこでそれほどの変化があったとは思わないですよね。それよりも、腹芸的な面や利益誘導型の政治みたいなものにノーを突きつけたという点で評価できるところもあるように思ってたんですが、安倍政権でそういう部分もバックラッシュ的に戻ってきそうな気配が濃厚になっています。

與那覇:小泉改革にはいろいろ問題があったと思いますが、ネオリベだから問題だというのは違っていて、「ネオリベラリズムですらない何かのほうが、本当は問題なんじゃないか?」という気持ちがすごくありました。実際、その安倍政権もネオリベ的な規制緩和は引っ込めて、経済的には不合理な靖国参拝のほうを受け継いでいますよね。

斎藤:「ですら」ないんですよね。さすがは「瑞穂の国の資本主義」という迷言を吐いただけのことはある。やはりヤンキー的としか言いようのない体質があって、思想的な一貫性はあまり重視していない。ロジックがなくてポエムだけがあるんでしょう。

與那覇:ネオリベラリズムの先行事例として挙がるのは英米両国ですが、アメリカの場合は本来、自由競争を武器に「あそこでひと山当ててやれ」という移民を世界中から集めて作った国だから、レーガノミクスの市場自由化には一種の「原点回帰」という意味があったわけです。逆にイギリスは第二次大戦後、あまりに徹底した福祉国家をつくりすぎて一度リセットせざるを得なくなったというのが、サッチャリズムでしょう。

つまりどちらの場合も、それぞれの国の歴史に根差せば、その出現が理解できる部分があった。それに対して、同様の文脈をまるで欠いている日本版のネオリベラリズムって何なの? という疑問に、はじめて答えてくれたのが斎藤さんだと思うんです。

斎藤:ちょっと過大評価と思いつつも、ありがとうございます(笑)。『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)なんて本も出てきましたが、ネオリベとの最大の違いは、ヤンキー文化には個人主義が完全に欠落している点でしょう。

與那覇:おっしゃるとおりで、真の問題は、ネオリベ性ではなくヤンキー性なんですよね。小泉政権の頃はまだ竹中さんにせよ、国民をグローバル経済とはこういう仕組みなんですという、インテリ的な説明で説得しようとしていた。それが橋下徹さんになると、もっとヤンキー度が増してくる(笑)。

斎藤:増しちゃうんですよねぇ。わかりやすいホンネ主義、気合い主義にどんどん傾いていく。お友達の松井大阪府知事なんて、都構想反対の府議に「答えてみぃや!」なんてコワモテ風に迫っちゃうし。あのわかりやすさが人気の秘訣なんでしょうねえ(笑)。

與那覇:小泉改革の場合は「ヤンキー=6/インテリ=4」くらいで回していたのが、橋下維新は「ヤンキー=9/インテリ=1」くらいになった気がします。

斎藤:そうなんですよ。ヤンキーに知性があってはいけない理由はないんですけど、ヤンキー的な人々というのは感性を肯定するために知性を批判するんですよね。「考えるな、感じろ」とばかりに。私が石原慎太郎をヤンキーに括らなかったのは、彼には教養主義的なものに対して一目置くところがあるからなんです。一時期、僕の話も面白がって聞いてくれましたが、そういう公正さはある。

與那覇:たしかに、石原さんには自分が文学者だという自意識がいまもありますよね。

斎藤:そっちに軸足がひとつあるので、完全な反知性には行かないですよね。三島由紀夫に対しても、その身体コンプレックスは小馬鹿にしつつも、その知性には一目置いている。大江健三郎にもそういうスタンスだと思います。オカルト的な気合いだとかも、あまり言わない。

※ 「なぜヤンキーはディズニー好きなのか」に続く

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