生徒を自殺に追いやる「スパルタ部活」の深い闇 「逃げ場のない状況」が子どもの心を摩耗する

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この例を見ても、学校の部活が時に子どもを極限まで追い詰めるものであることがわかります。学校外の吹奏部であればやめることができますが、学校という閉鎖的な空間ではその選択が難しいので追い詰められてしまいます。

「退部するのは甘え」とか「最後までやり遂げるべき」とか「進学に響くぞ」と脅されるなど、いったん足を踏み入れたらよほどの覚悟がないとやめられないというのは欧米的な感覚だとヤクザ組織と同じと言えるのではないか、なんて思ってしまいます。怖すぎです。

「厳しいシゴき」は本当に必要か

部活は「思い詰める大人」を作り出す土台になっています。部活は「根性がつく」というのは当たっているようで当たっていないのです。

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「何か物事を始めたときに、それを途中で投げ出さずに最後までやり遂げる」とか「先輩にシゴかれても頑張る」というような意味では忍耐力が身につくかもしれませんが、結局それが人生に不可欠かというと疑わしいです。

どんな仕事に就いてもすぐにやめてしまう人は確かに困り者ですが、日本での過労死や自殺、鬱がたたって復帰不能となるケースを見ていると、果たして「何がなんでも最後までやり抜く」が本当の意味での「根性」なのか疑問に思います。途中で勇気を出して、「ここまではできません」と言い切ったり、会社をやめたりしていれば過労死せずに済んだのではないかと思われるケースは多くあります。

日本では年間の自殺者が約2万人という恐ろしい数を見ると、この一部には、「最後まで我慢」だとか「根性で何とか乗り切る」という考えを捨て、早めに逃げていれば助かった命もあったのではないでしょうか。

思うに、本当の意味の根性とは「人生をまっとうする術を身につけ、その余力を残しておく」ことではないでしょうか。死んでしまってはすべてが終わりのはずです。自分の人生を最後まで諦めずに生きる──それこそが根性ある生き方だと思います。

サンドラ・ヘフェリン コラムニスト

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Sandra Haefelin

ドイツ・ミュンヘン出身。日本歴20年。 日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「ハーフといじめ問題」「バイリンガル教育について」など、多文化共生をテーマに執筆活動をしている。著書に『ハーフが美人なんて妄想ですから!!』(中公新書ラクレ)、『ニッポン在住ハーフな私の切実で笑える100のモンダイ』(ヒラマツオとの共著/メディアファクトリー)など著書多数。

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