苛烈な円高株安の中、日銀の「次の一手」を予測

「GPIFとの共同戦線」か、2014年と環境は酷似

なお、日銀保有株式の損益分岐点は日経平均株価指数において1万9000~1万9500円という指摘が目立つ。まさに現状は損益分岐点に近いところににある。この点、「中銀のバランスシート健全性」と「通貨の信認」を結び付けてETF購入策への不安を口にする向きもしばしば目にする。だが、これは正しくない。実は両者にそれほど強い因果関係はない。

かつて自国通貨高を押さえ込もうとしたスイス国立銀行(SNB)が無制限ユーロ買い・スイスフラン売り介入に失敗し、債務超過に陥ったことがあった。自国通貨高ゆえに債務超過に陥ったのである。「中銀のバランスシート健全性」と「通貨の信認」に因果関係がないことの好例であろう。もちろん、債務超過にならないことに越したことはないが、それを理由にやるべき政策をあきらめることもやや筋違いの話である。

もっとも、現在直面している資産価格の下落が疫病に起因していることを思えば、「どこまで付き合うのか」という問題意識は持ったほうがよいかもしれない。金融緩和でウィルスを殺せない以上、付き合うだけムダという考え方も一理ある。とりわけ日銀は手札が少ないのだから対応はなおさら慎重に、である。

昨年11月に発表された2019年4~9月期の決算では東証1部の時価総額の5.3%が日銀保有分と判明した。いまさら感があることを承知で言えば、価格調整機能の低下や流動性低下に伴う価格変動リスクの上昇、株主構成の歪みを通じた資本市場の毀損などは引き続き懸念される。なにより国債のように自然減が期待できないだけに、「出口がない」ことへの不安は増すばかりだ。付き合うだけムダな問題にどこまでリスクを取るべきかという問題意識からは、ETF購入枠拡大への反対論はあるのだろう。

疫病対策オペは有力、GPIFとの共同戦線も

第3に、東日本大震災や熊本地震を受けて「被災地金融機関を支援するための資金供給オペレーション(復興オペ)」が実施された経験を踏まえれば、今回の疫病に対しても類似の枠組みは検討されるであろう。すでに政府の経済対策の中でも想定されているように、企業部門に対する資金繰り支援こそが現在最も求められる政策であるのは間違いない。

飲食・宿泊業を中心として壊滅的な損害が報じられ、早くも破綻やリストラに追い込まれた企業も現れている。まずは資金繰り支援である。ゆえに、繰り返しになるが、この状況でマイナス金利の深掘りに踏み込むのは政策間の整合性が取れない誤った政策運営と考える。

第4に、やや毛色の違う視点も気にしたい。3月中にも公的年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がポートフォリオの見直しを明らかにすることになっている。2014年10月31日、黒田体制下での初めての追加緩和(通称「ハロウィン緩和」)はGPIFのポートフォリオ見直しと同日に発表された。これが「偶然の産物」だったのかどうかは当時も話題となった。

事実として日銀が国債購入額の引き上げを決断した同日にGPIFが国債購入割合の大幅削減(と国内外株式や外債割合の拡大)を発表したことは市場参加者の記憶に鮮烈に残っている出来事だろう。思い返せば、あの時も、原油価格の急落が話題であり、消費増税の副作用が物価情勢に与える影響も追加緩和の理由として持ち出されていた。奇しくも同様の条件が今回もそろった。少なくとも同日に発表するなどして日銀とGPIFが歩調を合わせた上で共同戦線を演出し、円高のけん制を試みる可能性はある。

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