苛烈な円高株安の中、日銀の「次の一手」を予測 「GPIFとの共同戦線」か、2014年と環境は酷似

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最後にドル円相場の今の水準をどう考えるかにも言及しておきたい。「100~105円」のレンジが国際機関の算出する絶対的購買力平価と近いことはよく知られている。例えばOECD(経済協力開発機構)の2019年試算値は103円、世界銀行の2018年試算値は101円である。また、最近定期的に取り上げられる日本経済研究センター試算の均衡レートは「107~108円」と示されることが多く、やや円安気味だ。だが、それでも「110円以上の円安は過剰」という印象は残る。

目先、重要なことは、素人が悩んでも分からない疫病の先行き予測よりも、「もともとあったアメリカ金利とドル相場の歪みがようやく解消され始めた」という目線で現状と展望を描くことだ。過去1年半あまりで長期金利が4分の1(2018年10月:3.2%→2020年3月:0.8%)になったにもかかわらず、その通貨の価値が高止まりするということに根本的な違和感があった。

経験則なら100円を割っていないのが異例

仮にドルインデックス(多通貨に対するドルの強弱を見る指数)がドル高局面の出発点である2014年6月付近まで回帰するとした場合、さらに10%程度のドルの下落が必要になる(インデックスは3月9日現在約95、2014年6月平均は80である)。これはドル円相場に置き換えると1ドル95円割れを展望することになる。もちろん、非常にラフな試算にすぎないし、そもそもすべてを対円で調整する必要はない。何より日本の対外債権構造も変化しているため、かつてほど円相場は上昇しない可能性もある。

だが、今月にも2014年6月当時のFF金利(0.00~0.25%)に戻る可能性すらささやかれる中、ドル円相場がまだ100円割れしていないことのほうが経験則に照らせば異例であることは認識しておきたい。これが新常態であるのかどうか。結論を拙速に出すのではなく、FRBが利下げ余地をはき出した後に改めて判断すべきであろう。

※本記事は個人的見解であり、筆者の所属組織とは無関係です

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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