コロナ影響長引く北京の人気「麺料理店」の窮状 異常事態に生き残るために協業で助け合い
業界団体の調査によれば、中国全土のレストランや仕出し業者が被った損失はすでに850億ドルに達している可能性があるという。調査では今回の新型コロナウイルスの感染拡大のことを、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトが1815年に敗北を喫した最後の戦いにちなんで「ワーテルロー」と呼称。キャッシュフローが不十分だったり、それほど人気がない店は営業再開できない可能性もあると指摘している。
「まさにそのとおり」と杜は言った。「かなりの店が生き残れないだろう」。
胖妹面庄は2015年に、北京の胡同(フートン)と呼ばれる狭い路地にオープンした。売りは重慶風の唐辛子をたっぷり使ったピリ辛麺だ。杜の夫のいとこが経営する重慶のチェーン店からののれん分けで、北京でも熱烈なファンを獲得した(開店から1年でアメリカのグルメ情報サイト『Eater』の『北京で必ず行くべきレストラン』38軒の1つに選ばれた)。
杜はレジを打ちながら取材に答え、1月の春節直前には不安を感じていたことを語った。当初、新型コロナウイルスに関して不安をかき立てるような話は、流行の震源地とされる武漢からのものばかりだったと彼女は言う。常連客たちは「とてもくつろいだ様子で、うれしそうに麺をすすっていた」。
「みんなあまり深刻には捉えていなかった」と彼女は言う。ほんの数週間前の話だ。
北京にある中小の店舗やレストランの多くがそうだったように、この店も春節は休業し、2月6日に営業を再開する予定だった。だが新型コロナウイルスの感染が拡大し、当局が封じ込めに力を入れたこともあり、重慶からの香辛料の仕入れができなくなってしまった。
北京で手に入る香辛料は「香りが足りない」と杜は言う。それに北京の市場の大半は閉まっていた。「ごく基本的な調味料も手に入らなかった」。
2月14日までに杜と夫は何とか新たな供給ルートを確保した。メニューはゆでるだけで食べられる麺と餃子の配達セットに絞ったから、材料は足りた。セットには調理の手順を書いた紙をつけた(杜に言わせれば、麺料理はできたてを食べるのが1番。出前の時間だけでもひどく味が落ちるはずだという)。
感染拡大は出前ビジネスには追い風になるのではと思いがちだが、業界団体の調査によれば、こちらも大きな痛手を受けている。配達員の多くが春節の休暇以降、北京に戻ってこられないのも理由の1つだが、客のほうも街をスクーターで走り回っている見知らぬ人間と接触するのが嫌なのだそうだ。
協業で肩を寄せ合って助け合っている
杜によれば、店の売り上げは以前の3分の1でコスト削減を迫られている。通常なら20人の従業員を雇うところを、仕事に戻ってきたのは8人だけ。杜はパソコン上でウィーチャット(中国でよく使われるメッセージアプリ。支払い機能もある)を操作し、ネット注文をさばいているが、ポップス歌手でもある夫は北京の別の場所にある倉庫で唐辛子の仕込みをしている。
利用できそうな政府の支援策についてはまだ聞いていないと言う杜だが、同業者との連絡は絶やさず、意見交換をしている。今心配しているのは、家賃とローンの支払いが間に合うかどうかだ。
地元のビール醸造所からは手を組もうと声がかかった。配達メニューにビールも入れてほしいというのだ。「協業に関するすごく詳細な提案を出してくれて、とても断れなかった」と杜は言う。「今は異常事態だ。誰もが肩を寄せ合って暖を取って生き残ろうとしている」。
完全な営業再開は早くても3月末になるだろうと杜は考えている。それでも前向きな気持ちを忘れないようにしようと心がけている。「結局のところ」と杜は言った。「人間は食べずにはいられないのだから」。
(執筆:Steven Lee Myers記者、翻訳:村井裕美)
(c) 2020 New York Times News Service
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