聞き上手の「エモいオヤジ」が若者にモテる理由 「共感」で「学び」を掘り起こす「サードドア」

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共感から入って、自分自身の中にある過去の体験を呼び起こして「追体験」し、そこから学びを掘り起こす。そんな学びの体験が今っぽいのかなと思います。

まったく新しいものを学ぶ、というのは成人になるほど難しい。共感をベースに、「この話はあのときの自分の状況と似ているな」と自身の体験と突き合わせ、自分の中に眠っていた物語に光を当てる。そのほうが「自分ごと化」しやすく、学びの効率が高いと思います。

若い方は若い方で、「自分らしさ」を大事にすると言われます。上から言われたことをやるというスタイルより、このほうが受け入れられやすいでしょう。

過去を「追体験」することで学びを自分ごと化する

マーケティングでもなんでも、科学というのは抽象化ですよね。失敗例と成功例をたくさん集めて、成功例に共通する要素はなんなのかを抽出する。仕事でも人生でも、これができると成功の再現性が高くなる。

この成功例と失敗例というのは、何も今から貯めていく必要はない。自分の過去のなかに、たくさんストックがあるはずです。「追体験」というのは、そうした過去の成功例・失敗例のストックに、抽象化の光を当てるということだと思います。

でも、成功例を抽象化する、というのは簡単なことではありません。だから、誰かが抽象化してくれた「ゴールデン・ルール」を、まずは誰かの物語とともに吸収する。そして、それを自分の過去の似たような体験に当てはめて考えてみる。

そうすると、自分の過去をその「ゴールデン・ルール」のもとに追体験することができます。あんなことがあった。こんなこともあった。そこに共通しているのは確かにこんなルールだったな、と。

このときの学びは腹落ち感がありますし、定着しやすいです。なにせ自分の経験からの学びなので。しかも、新たに経験する必要はなく、自分の過去を追体験すればいい。なので効率もいいですよね。

『サードドア』からは、まさにそんな学びが得られるんです。アレックスとは比べものにならないくらい小粒ですが、僕にも、過去にいくつか成功(失敗)体験がある。アレックスの成功(失敗)体験は、あのときの自分に似ているな、と。あの成功(失敗)の裏には、こういうルールがあったのか、と。

『サードドア』というタイトルからしてそうですよね。正規のルートでもなく、限られた人だけが通れる「裏道」でもなく、そこにはいつでも第3のドアがあるんだ、というルール。真理といってもいい。

正規のルートでは絶対無理。裏道を通るためのコネなどの鍵も持ってない。でもどうしても諦められず、あの手この手で幸運を手繰り寄せ、憧れのあの会社に入れた。そんな経験が誰にでもあると思います。この本は、そんな経験に「サードドア」という概念で抽象化の光を当てながら、追体験させてくれるんです(後編に続く)。

(構成/泉美木蘭)

井上 大輔 マーケター、ソフトバンク株式会社 コミュニケーション本部 メディア統括部長

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いのうえ だいすけ / Daisuke Inoue

ミュージシャンを志すも挫折。小さな広告会社でプランナーの仕事を始める。当初はまったく仕事のできないお荷物社員だったが、マーケティングの英知から学んだ「仕事とは人の役に立つこと」という思想に目覚めて以降、仕事にかぎらずあらゆる場面で「必要とされる」ようになる。

以降ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディジャパンなどでマネージャーを歴任。ヤフー株式会社MS統括本部マーケティング本部長を経て現職。

雑誌・Web媒体への寄稿や講演会・セミナーへの登壇多数。NewsPicksアカデミアプロフェッサー。著書に『デジタルマーケティングの実務ガイド』(宣伝会議)など。

 

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