中国・新型コロナ「遺伝子情報」封じ込めの衝撃

武漢「初動対応」の実態、1万3000字リポート

2019年12月末から今年の1月初旬の数日間を振り返ると、この時期が多くの人々の運命を決定づける重要な時期だった。しかしこのときは、誰もこのウイルスが引き起こす深刻な事態を知る由もなかった。

ある遺伝子シーケンス企業の関係者は、2020年1月1日に湖北省衛生健康委員会の役人から電話を受け、「新型コロナウイルス肺炎の患者のサンプルを受け取っている場合でも、以後は検査を行ってはならないこと」や、「すでにあるサンプルも破棄しなければならず、サンプル情報を外部へ漏らすことも禁止で、かつ関連する論文やデータを発表してはならない等の通知を受けた」と話す。「もし今後あなた方が検査を行った場合は、必ずわれわれに報告を行うように」とのことだった。

1月3日、国家衛生健康委員会の弁公庁(事務機構)は、『重大突発感染病予防管理作業における生物サンプル資源および関連する科学研究活動の管理作業の強化に関する通知』を発表した。

「みだりに情報を外部に公表してはならない」

この通知(国衛弁科教函(2020))の第3号文では、「武漢肺炎の症例サンプルについては、現在までに把握しているウイルスの特徴や感染性、病原性、臨床データ等の情報を鑑み、ウイルスの情報が明確になるまでは高病原性病原微生物(第2類)として管理すること」、「関連するサンプルの輸送に関しても旧衛生部『人類への感染可能性のある高病原性病原微生物菌(ウイルス)類またはサンプルの輸送管理規定』の要求に従い実施すること」、「病原体に関する実験等も、相応の防護体制が整っている生物安全実験室等で行うこと」等が規定されている。

第3号文にはさらに「各関係機関は省級以上の衛生健康行政部門の要求に従い、指定の病原体検査機関に生物サンプルの提供を行い、病原菌検査を行い適切な引き継ぎ作業を完了させること」、「許可を得ずに、みだりにその他の機関や個人に生物サンプルおよび関連情報を提供してはならない」、「すでに関連の医療衛生機関から患者の生物サンプルを取得した機関および個人は、当該サンプルを現地で破棄するか国家指定の保存機関に送付しなければならない。また関連の実験記録および実験結果の情報を適切に保管しなければならない」。

また「感染症対策が行われている期間、各機関は病原体検査の任務により生じた情報が特殊公共リソースであることに同意し、いかなる機関も個人もみだりに病原体検査や実験活動の結果に関連する情報などを外部に公表してはならない」、「関連する論文、成果の発表は委託部門の審査を受け、同意を得なければならない」等の規定が記されている。

どの機関が「指定病原体検査機関」に該当するのかについては文書では触れられていない。あるウイルス学者は中国科学院武漢ウイルス研究所すらも一度検査の停止を命じられ、そのうえで所持しているサンプルの破棄を求められたと話す。

「現行の『伝染病予防治療法』に従えば、伝染病に関し実験室で検査や診断、識別などを行うのは各級の疾病予防管理機関の法的責任であるが、国家と省級の疾病管理機関のみが伝染病の病原体に対し識別を行う権利を有し、その中に中国科学院武漢ウイルス研究所は入っていない。許可を得ていない民間の科学研究機関は言うまでもない」

おそらくこのため、12月30日にウイルスのサンプルを入手した中国科学院武漢ウイルス研究所は2020年1月1日にウイルスの分離を行い、1月2日にはウイルスの遺伝子シーケンス検査を完了させた。さらに1月5日にはウイルスの分離培養に成功し、1月9日に中国国家ウイルス資源庫に入庫および標準化保存を行った。

このことが意味しているのは昼夜を問わず行ってようやく完成させた研究業務について、遅々として対外的に公表を行わず、2月になって噂が囁かれ始めてようやく、わずかな説明を加えたということだ。

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