デマで買い占めに走る人が何とか拭いたい恐怖 何がパニックの引き金になってもおかしくない

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社会心理学者のシェルドン・ソロモンらはこう述べている。

注意を自分自身からそらすことも、死の考えを意識から追い払うのに役立つ。自分を意識しているとき――たとえば鏡に映る自分の姿を見たり、誰かが自分のことを見ているのに気づいたりして、自分が自分のことを考えているのに気づいたとき――には、死の考えが心に浮かびやすくなることが、研究で示されている。そのため、人は死について考えたあとはとくに、なんとかして自分に注意を向けないようにしようとする。食べすぎ、飲みすぎ、チェーンスモーク、長時間のテレビ視聴はすべて、自意識を弱める。(シェルドン・ソロモン、ジェフ・グリーンバーグ、トム・ピジンスキー『なぜ保守化し、感情的な選択をしてしまうのか 人間の心の芯に巣くう虫』大田直子訳、インターシフト)

「死の考え」を打ち消そうとする心理

ソロモンらは、直接触れてはいないものの、ここには「買いだめ」「買い占め」も入るだろう。スーパーマーケットやドラッグストアなどをはしごして、特定の物品の入手に奔走することは、「注意を自分自身からそらす」のに好都合だからだ。その無意識には「死の考え」を打ち消そうとする心理があるのだろう。

ここで懸念されるのは、健康を害する可能性である。

ソロモンらが紹介した研究では、生活習慣などによる悪影響だったが、今回のデマによる買い占めパニックでは、驚くべきことに感染リスクが一切顧みられていなかった。人々が長蛇の列を作って何時間も並び、さらに押し合いへし合いして、トイレットペーパーなどを奪い合う現場は、インフルエンザと同様、感染リスクにさらされる機会となる。多数の人が集まる場所へ雪崩れ込むことで集団感染が発生してもおかしくはない。

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このようにデマに基づく行動は、かえって自他のリスクを高める場合があることに無頓着になるのだ。

今後、新型コロナウイルスの感染拡大がどのような局面を迎えるか不透明だが、清水幾太郎が「一片の流言はよく国を傾けることが出来る」(前掲書)と述べているように、国家や社会システムを維持するための「免疫」をも破壊してしまう恐れがある。「パンデミック」ではなく「インフォデミック」によって、わたしたちは自らの日常生活をズタズタに切り裂いているのだ。

真鍋 厚 評論家、著述家

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まなべ・あつし / Atsushi Manabe

1979年、奈良県生まれ。大阪芸術大学大学院修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。 単著に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)。(写真撮影:長谷部ナオキチ)

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