社会心理学者のシェルドン・ソロモンらはこう述べている。
「死の考え」を打ち消そうとする心理
ソロモンらは、直接触れてはいないものの、ここには「買いだめ」「買い占め」も入るだろう。スーパーマーケットやドラッグストアなどをはしごして、特定の物品の入手に奔走することは、「注意を自分自身からそらす」のに好都合だからだ。その無意識には「死の考え」を打ち消そうとする心理があるのだろう。
ここで懸念されるのは、健康を害する可能性である。
ソロモンらが紹介した研究では、生活習慣などによる悪影響だったが、今回のデマによる買い占めパニックでは、驚くべきことに感染リスクが一切顧みられていなかった。人々が長蛇の列を作って何時間も並び、さらに押し合いへし合いして、トイレットペーパーなどを奪い合う現場は、インフルエンザと同様、感染リスクにさらされる機会となる。多数の人が集まる場所へ雪崩れ込むことで集団感染が発生してもおかしくはない。
このようにデマに基づく行動は、かえって自他のリスクを高める場合があることに無頓着になるのだ。
今後、新型コロナウイルスの感染拡大がどのような局面を迎えるか不透明だが、清水幾太郎が「一片の流言はよく国を傾けることが出来る」(前掲書)と述べているように、国家や社会システムを維持するための「免疫」をも破壊してしまう恐れがある。「パンデミック」ではなく「インフォデミック」によって、わたしたちは自らの日常生活をズタズタに切り裂いているのだ。
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