今回のトイレットペーパーをめぐるデマは、実はすでに香港で発生した出来事の後追いである。2月初めにブルームバーグが「(香港)市内の一部地域のスーパーマーケットではトイレットペーパーが入手できない状況で、ソーシャルメディアには空の棚や買い求める客の行列を映した投稿が相次ぎ、品不足をあおっている」と報じ、「『うわさを拡散する悪意ある行為』がコメやトイレットペーパーなどの品不足を招いた」という香港当局のコメントを紹介した(マスク不足の香港、トイレットペーパーも品切れ続出/2020年2月6日/Bloomberg)。日本でも2月17日に読売新聞オンラインがトイレットペーパーの強奪事件と併せて香港の騒動を取り上げた。
このため、筆者は、日本においても社会不安が全国的に高まった場合、同様の現象が起きる可能性があるとにらんでいた。2月20日には、中部大学(愛知県)が公表した研究結果のプレスリリース「海藻の『あおさ』にヒトコロナウイルス増殖抑制効果を確認-新型コロナウイルスでの効果にも期待-」(後に取り下げた)を契機に、各地でアオサが売り切れ、フリマアプリで転売される騒動が発生。何がパニックの引き金になってもおかしくない下地ができていたのである。
デマの発信源を特定することは困難
デマの発信源は、一説によれば、ソーシャルメディアのあるアカウントに疑いがかけられているが、そもそも発信源を特定することは困難であり、当該人物は香港で出回っていた情報を真に受けた可能性があるだろう。
日本家庭紙工業会は2月28日、ホームページにお知らせを掲示。「トイレットペーパー、ティシューペーパーについてはほとんどが国内工場で生産されており、新型コロナウイルスによる影響を受けず、現在も通常通りの生産・供給を行っております」と呼び掛けた。2月29日の安倍首相の記者会見でも「ほぼ全量が国内生産」などと言及する事態に発展した。
新型コロナウイルスの国内での感染拡大と、それに対する政府のずさんな対応などが続いたことにより、「未知のウイルスで何が起こるか予測できないこと」だけでなく、「感染の人数や規模など実態が正確にわからないこと」が社会不安をかき立てる主な要因になっている。
では、なぜそれが噂やデマの氾濫となって現れるのだろうか。人間には、自分が入手した「秘密を誇示したい」という強い欲望があるが、緊急事態において「嘘が恐怖に対する一つの救い」となると言ったのは社会学者の清水幾太郎だ。
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