家事・育児・介護に専念する30代男性の幸福度 同じ会社で働く妻と「収入金額」は同じだが…

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「いざ同居が決まると、両親は『とても助かる』と喜んでくれました。内心、孫と暮らせるのがうれしいようです。私が父のリハビリに付き添う間、母には息子の相手をしていてほしいと考えています。妻も育児・介護は今までどおり私がやり、妻は仕事に専念してほしいということを伝えたところ、承諾してくれました」

男性で、ダブルケアのキーパーソンになる例は珍しい。いくら制度が整っている会社でも、これまで仕事とダブルケアを両立させるにあたり、困ったことはないのだろうか。

「17時以降の会議や打ち合わせに出られないということは、割と頻繁にあります。あとは、検討課題が発生した場合に、残業対応ができないことも……。仕事に時間的な制約が出るのは仕方がないとはいえ、正直もどかしいです。検討課題や新規の仕事に対して、ほかの社員より試行錯誤する時間がないことは、時々悩みますね」

新規や検討課題のある仕事の場合、その仕事にかかる時間の見込みを立てにくい。見込みより時間がかかってしまった場合、保育園のお迎え時間が迫ると、残ってしまった仕事を誰かに引き継いでもらわなければならない。期日が長い仕事なら翌日続きをすることもできるが、短い場合は難しい。

「ダブルケアだけでなく、小さいお子さんのいる女性社員は皆さんやっていると思いますが、時間が限られているからこそ、自分でなければできないことを優先して取り組み、そうでない仕事はほかの社員に任せること、無駄な業務をなくすこと、効率よく仕事をする工夫をしています。

例えば、RPA(Robotic Process Automation)や、マクロを用いた自動化を推進し、定型的な繰り返し作業がある場合や、自動化できそうなものは自動化する。また、業務の目的と本質を勘案したうえで、なくしてもいい業務はなくす方向で進めるなど、周囲に働きかけています」

そのほか、Outlook・OneNote・工程管理ツールなどを用いて、プロジェクトチームのメンバーのタスク・進捗状況を見える化することで、メンバーの誰かが突発的に仕事を休んだ場合や遅刻・早退を要する場合に、チームでカバーができるようにしている。

自分のパフォーマンスを上げなければという焦り

「息子のお迎え時間になると、『そろそろ時間大丈夫?』と周囲も配慮してくれて、働きやすい環境ではあると思います。しかし、自分のパフォーマンスを上げなければという焦りみたいなものもあります。高いスキルがあれば、時間的制約があっても短時間で仕事はできるわけですから、ダブルケアは言い訳になってしまう。環境に甘えず、スキルアップを考えていかなければならないと思っています」

生産性の向上を課題とし、改革に取り組んでいる会社は少なくない。大森さんの会社も同様で、大森さんも経験者の1人として、労働時間を考える社内座談会に呼ばれることもあるという。

「日本は現在、長く働くのが美徳みたいになっていますが、今後はますます少子高齢化や晩婚化が進み、人口も減っていくため、どうしたら社員が介護離職を起こさずに働き続けられるかを考え、国や社会が変わっていかなくてはまずいです。短く働けるようになれば、育児や介護だけでなく、趣味や自己研鑽、社会貢献に充てることができるようになります」

仕事と同様に、家事・育児もなるべく短時間で効率的に進めるために、やるべきことに優先順位をつけ、優先順位の高いものから、必要最低限のことを同時並行で進めることを心がけている。

「私がダブルケアのキーパーソンになったのは、今しかできないことを優先させたかったからです。育児では、いちばん長い間、息子を見守ることができます。保育園の先生や保護者と一緒に子どもの成長を喜んだり、悩みを相談し合ったりできます。保育園のクリスマス会では、サンタクロース役をやらせてもらいました。介護では、父や母と長い時間を過ごし、話し合うことができました」

その表情に、疲れや悲愴感はみじんも感じられない。むしろ、幸福感にあふれているように見えた。

旦木 瑞穂 ライター・グラフィックデザイナー

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たんぎ みずほ / Mizuho Tangi

愛知県出身。印刷会社や広告代理店でグラフィックデザイナー、アートディレクターなどを務め、2015年に独立。グルメ・イベント記事や、葬儀・お墓・介護など終活に関する記事の執筆のほか、パンフレットやガイドブックなどの企画編集、グラフィックデザイン、イラスト制作などを行う。主な執筆媒体は、産経新聞出版『終活読本ソナエ』、鎌倉新書『月刊「仏事」』、高齢者住宅新聞社『エルダリープレス』、インプレス「シニアガイド」など。

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