沸騰するビジネスドラマ、解答なき時代の羅針盤?
むろん、他のドラマにはない特有の難しさもある。専門用語や複雑な仕組みを制作者がきちんと理解する必要がある。「ハゲタカ」や「監査法人」は、「報道局にも相談し、現場の記者に内容をチェックしてもらっていた」(山本氏)という。
「経済情報はテレビ東京の専売特許ですから」と、福田裕昭チーフプロデューサーは胸を張る。同局のビジネスドラマの源流は、経済ニュース「ワールド・ビジネスサテライト(WBS)」。1988年の放送開始以来現在もビジネスパーソンから高い支持を得ている。硬い内容になりがちな経済報道を分かりやすく視聴してもらうという点に腐心し、今では「経済の動きをビジュアルで見せるのに苦労はない」と言う。
WBSの成功はスタッフにも大きな自信となった。その結果、ニュースという範疇を超えて経済ドキュメンタリー「ガイアの夜明け」(02年)、経済トーク「カンブリア宮殿」(06年)が生まれた。さらに今年4月からはリーマン・ブラザース破綻の舞台裏からスポーツドリンクの開発秘話まで、現実の経済事象をドキュメンタリー風にドラマ化した「ルビコンの決断」がスタート。「ドラマ仕立てにすれば女性も見やすくなる」と、福田氏は語る。
ここまでは経済がドラマとして面白くなってきたという見方を紹介したが、別の見方もある。視聴者が見たいドラマが変わったという側面だ。かつてのテレビドラマは、流行の先端を行く「トレンディドラマ」が中心で、視聴率が20%を超える作品がざらにあった。ところが、テレビ離れなどの影響もあって、今や10%台後半でも高視聴率と言われる時代だ。「テレビ局はコンテンツが枯渇している」と、テレビ東京の福田一平編成部長は言う。だからこそ経済ドラマは新たな金脈となる。「昔は視聴率が取れないと言って、経済なんて他局は見向きもしなかったが、今はコンテンツとしての可能性が広がっている」。
タイヤ脱輪事故と自動車メーカーのリコール隠しを題材にした連続ドラマ「空飛ぶタイヤ」(09年)で今年のドラマ賞を総なめにしているWOWOW。最新作である金融業界を舞台にした「隠蔽指令」の井上衛プロデューサーは、40~50歳代中心のWOWOWの視聴者層とも大きな関係があるという。
「もともとはトレンディドラマで育ってきた世代でドラマ好き。しかも(同局で放送の多い)ハリウッド映画を見慣れているので内容が濃いものを求められる」(井上氏)。