沸騰するビジネスドラマ、解答なき時代の羅針盤?
ダークスーツに身を固めた男たちが、激論を戦わせる--。
ビジネスをめぐる策略、攻防を描く映像がテレビや映画のスクリーンに多く登場するようになった。日本のテレビ・映画業界では今年、経済やビジネスを舞台にしたリアルで濃厚な人間模様を描く「ビジネスドラマ」の放送・公開が相次いでいる。
2007年にNHKで放送され、近年のビジネスドラマブームの先駆けとなった「ハゲタカ」は今年6月に映画化。地上波では、9月に放送を終了した城山三郎原作の「官僚たちの夏」(TBS)、さらに10月からは山崎豊子原作の「不毛地帯」(フジテレビジョン)と、立て続けに放映されている。さらに同じ山崎豊子原作で現在公開中の映画『沈まぬ太陽』も大きな話題を集めている。
視聴者が好むのは“昭和時代劇”
なぜビジネスドラマが熱いのか。理由はいくつか考えられる。
「経済が身近になり、面白くなった」と、NHKのドラマ部門を率いる山本秀人制作局第2制作センター部長は言う。NHKはこれまでにも「ザ・商社」「価格破壊」といった、ビジネスドラマの傑作を生み出してきた。今回のブームの特徴は「00年以降の時代の空気をとらえた結果だ」というのが、山本氏の見立てだ。
バブル崩壊後、年功序列・終身雇用といった日本型経営が崩れ、企業のあり方や人々の働き方が大きく変化。先が見えない不安を背景にした消費者の経済に対する強い興味・関心が醸成されてきた。
そこに登場したのが小泉純一郎元首相やライブドアの堀江貴文氏といった強烈な個性を放つ“役者”たち。郵政民営化や企業のM&Aなどの演題で立ち振る舞う彼らの一挙手一投足に注目する視聴者。その様子はまさに“劇場”--。
そうした経済・ビジネスの持つエンターテインメント性を切り取り、今の時代の人間ドラマを描いたのが、投資ファンドを題材にした「ハゲタカ」や粉飾決算を切り口にした「監査法人」(08年)だ。山本氏は「経済自体がサスペンス。(株価など)数字がデジタルに変わっていくことだけでもサスペンスになる。人間はカネに執着するし、欲望を満たす行動が最も過激に出てくる」とビジネスドラマの面白さを指摘する。