孤独死した40代女性の遺物に見た生前の苦しみ 故人の孤立を自己責任と突き放していいのか

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兄弟の存在は世間から孤立し、社会からは「透明で見えない存在」になっていた。このニュースで注目すべき点は、兄は昨年9月までは警備会社に勤めていたという点だ。たとえ働いていたとしても、社会との接点は職場のみで、そこから1度転がり落ちれば、誰にも助けを求められずに孤立してしまう。

この兄弟の孤独死は公共放送で大々的に報じられたが、前述した女性のように社会から孤立し、その結果、孤独死するというケースは、わが国では日々起こっているのが実情だ。

孤独死の現場を取材していて、警備員のように職場の入れ替わりが激しく、友人もおらず、固定した人間関係を形成しにくい職業に就いていた人が、孤独死しているケースはよくある。

ある50代の警備員の男性は、足を悪くしてから家に引きこもるようになっていく。布団を敷くことすらつらかったのか、取っていた大量の新聞とゴミの中に斜めに横たわるようにして亡くなり、管理人が見つけたときには死後1カ月が経過していた。

たった1度、社会からフェードアウトしただけで

長年、孤独死現場の取材をしていると助けを求める気力すら持てずに孤立し、亡くなる現役世代の姿が浮かび上がってくる。1度社会からフェードアウトすると、たった1人、部屋の中に置き去りにされ孤立してしまう。

そしてゴミ屋敷になるなどして、その部屋だけ異次元空間のように島宇宙化し、本人はその中で緩やかな自殺に向かう。もちろん個々人によって孤立に至るまでの理由は違うし、その期間もさまざまだ。そのため窮地に陥っていても、孤立している人をピンポイントで捕捉することは非常に困難である。

個人情報との兼ね合いもある。2017年の個人情報保護法改正で5000件要件が撤廃された。これまで5000件を超える個人情報を保有する事業者のみが個人情報保護法の対象だったが、改正個人情報保護法では、保有する個人情報が5000件以下の事業者でも、適用の対象となった。

そのため、支援が必要な人の情報を地域で共有することが難しくなり、これまで行ってきた見守り活動の一部がなり立たなくなっているという弊害も出ている。

ある福祉関係者は「自ら助けを求める勇気を持ってほしい」と訴える。

今後、孤独死をめぐっては、ひきこもりは高齢者だけでなく、親亡き後に迎える8050問題のようなケースが増えてくるだろう。また就職が極端に厳しく働き方も不安定な就職氷河期世代が年老いて、孤独死という結末を迎えることも考えられる。

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