SBIの「宣言」で曲がり角を迎えたネット証券 手数料の無料化でこれからどう生き残るのか

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マネックス同様に、顧客資産の増加への寄与を強く意識するのが、auカブコム証券だ。

同社の齋藤正勝社長は、「手数料がゼロになれば、パフォーマンス(顧客資産の増加)の競争になる。むしろそのほうが望ましい」と語る。厳しい競争環境を見据えてKDDIから資本を受け入れ、経営の自由度を上げるためにあえて非上場化するなど準備を進めてきた。

「『3年』と北尾さんが言ったことで、先にやらないと詰むという状況になった」(齋藤氏)。その第1弾が、昨年12月の社名変更と併せて行った信用取引での手数料ゼロ化だった。のちに信用取引の金利を引き上げたことには批判も集まる。が、「(今年)3月までに現物の引き下げに踏み込む可能性もある」と攻めの姿勢を崩さない。

手数料に代わる今後の収益源として、「カテゴリープラットフォーマー」としての地位確立も構想する。地場証券や地方銀行傘下の証券会社などに、自社で使っているシステムを大手より格段に安い価格で提供し、利用料収入を得たい考えだ。

経済圏獲得も熾烈に

1人の顧客から得られる収益が薄くなる場合、一般的に企業が取るべき戦略は大きく2つある。顧客の数を増やして薄利多売に備えることと、より収益性の高いサービスに集中し顧客1人当たりの利益が増えるようにすることだ。

これらは単独でも取り組むことができるが、とくに新規顧客獲得には時間とコストがかかる。そこで、顧客獲得の近道となるのが「経済圏」への参加だ。経済圏とは共通ポイントを利用した顧客の囲い込み戦略のことで、経済圏全体で顧客獲得コストを負担するため、1社当たりの負担が軽くなる。

典型例が楽天証券だ。広告費から計算すると、顧客1人を獲得するためにわずか6840円しかかけていない。一方で、軒並み1万円以上の費用がかかっているネット証券もある。

最も顧客獲得コストが高かったauカブコム証券は昨年12月に提携が本格化。1カ月で新規に開設された口座のうち、「約3割がauユーザーからの流入」(齋藤氏)と、早くも経済圏の恩恵を受けている。

王者SBIも例外ではない。「Zホールディングス(旧ヤフー)との提携は経済圏を取りに行った」(髙村氏)施策だった。昨年10月にZホールディングスと業務提携を発表し、まずはYahoo! JAPAN IDなどの共通利用からスタートするとしていた。

ただし、そのわずか1カ月後にはZホールディングスがLINEとの経営統合を発表した。野村証券との合弁のLINE証券を抱えるLINEとの統合は、SBI証券とZホールディングスの提携の行方を不透明にしてしまった。

先行するアメリカの事情に詳しい野村総合研究所の吉永高士氏は、「日米では手数料無料化の順序が逆転している」と指摘する。アメリカのネット証券業界は、委託手数料や信用取引の金利などで稼ぐモデルからの脱却を1990年代から始めていた。そのうえで現在無料化に進んでいるというのだ。

国内のネット証券は手数料以外の差別化要因に乏しい状況が続いてきた。裏返せば、格安手数料以外の付加価値を顧客に提供してこなかったともいえる。このまま手数料完全無料の時代に突入すれば、激しい消耗戦が始まる。その中で生き残れる企業は少ないだろう。

スペシャルリポート「ネット証券5社の曲がり角」のフルバージョンは『週刊東洋経済プラス』に掲載。

梅垣 勇人 東洋経済 記者

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うめがき はやと / Hayato Umegaki

証券業界を担当後、2023年4月から電機業界担当に。兵庫県生まれ。中学・高校時代をタイと中国で過ごし、2014年に帰国。京都大学経済学部卒業。学生時代には写真部の傍ら学園祭実行委員として暗躍した。休日は書店や家電量販店で新商品をチェックしている。

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