私たちが貨幣に翻弄され「罠に落ちる」根本理由 経済と人間の本質を描ききる「欲望の貨幣論」

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少し専門的になるが、現在の標準的な主流派経済学は「見えざる手」「レッセフェール(自由放任)」を数理的にモデル化して構築されている(新古典派による一般均衡理論)。

そして、新古典派は、均衡モデルが非常に得意であるが(例えば需要と供給のバランスによる価格決定モデル)、実はいわゆる“バブル”の分析を苦手としている。

岩井氏の依拠する数理モデル(不均衡動学)は、金融バブルやそのほかのスパイラル過程をうまく説明する。本書を読んで、株式市場を見るならば、そこでなにが起こっているのかがイメージしやすくなるだろう。金融市場の関係者に本書の読了を私が強くお勧めしたい理由でもある。

そして個人的に感じるのは、岩井氏の、パラドックス的な現象に弱くなってしまった経済学を立て直す作業への意志だ。それが本文の間から漏れ伝わってきて、非常に深い感慨を覚える。

貨幣論から経済学全体、そして人と社会のありようへ

本書は、貨幣論ではあるが、貨幣の性質から始まり、経済学全体、そして社会と人の歴史・生き方にまで考察が及ぶ。その視座の高さ、スコープの広さには驚かされる。人は自由たらんと欲望を大きくすることで、逆に不自由になってしまうという悲劇なども語られている。

欲する/欲されるの違いはあるにしても、貨幣が貨幣であることと、人が人であることは、そのパラドックスゆえに案外、似ているところがあるのかもしれない。そんなことを思わされてしまう、不思議な人間臭さのある貨幣論なのである。

佐々木 一寿 経済評論家、作家

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ささき かずとし / Kazutoshi Sasaki

横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業、大手メディアグループの経済系・報道系記者・編集者、ビジネス・スクール研究員/出版局編集委員、民間企業研究所にて経済学、経営学、社会学、心理学、行動科学の研究に従事。著書に『経済学的にありえない。』(日本経済新聞出版社刊)などがある。

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