市販薬の「大量服用」に依存する人の切実な実態 販売規制や啓蒙教育だけでは防止できない

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せき止め薬などの乱用のおそれがある市販薬は、購入量が一度に1瓶までに制限されるなど、国が販売ルールを定めている。しかし、2018年実施の厚労省調査によると、国が規定する販売ルールをドラッグストアの約半数が守っていなかった。複数買う場合でも、48%が使用目的の確認をしていない。2019年9月、厚労省は販売規定を徹底するよう、販売業者や製薬メーカー団体に指導した。

製薬メーカーはこうした事態をどう捉えているのか。ブロン錠を販売するエスエス製薬は、乱用について「大きな懸念事項だ。業界を挙げて防止策に取り組む必要がある」と答える。2019年10月以降、店頭に置くブロンの空箱に注意喚起のシールを貼付するなど、新たな取り組みを始めた。パブロンゴールドを販売する大正製薬も、「販売店には必要な情報提供をし、適正販売を依頼する。メーカー団体と連携して必要な対策を実施していく」と答えた。

販売店「売らないわけにはいかない」

販売店も苦心する。日本チェーンドラッグストア協会は、若年者へは身分証の確認、他店での購入状況を尋ねるなどの自主ルールを定めた。が、こうした規制には限界がある。担当者は言う。「購入者から売ってほしいと言われれば、売らないわけにはいかない。販売ルールの徹底にはばらつきがある」。

セルフメディケーションを推進する国は、処方薬から市販薬への転用や減税制度の導入などで市販薬販売を拡大している。2014年からは、乱用のおそれがある市販薬もインターネット販売が解禁された。ネット販売でも複数購入者には使用目的の確認が必要だが、これも半数の業者が守っていない。規制を強化できても、複数の店やサイトで購入しようとすれば簡単に手に入る状況だ。

根本的な解決は、乱用者本人が乱用に陥らないことだが、「ダメ。ゼッタイ。」といった薬物乱用禁止を訴える教育だけでは、防止できない。前出の松本医師は、「人に頼れない環境が薬物依存を生み出す」と指摘する。周囲の期待に応える「よい子」が、逃げ道として市販薬に依存することもあるという。

「市販薬に頼らざるを得なかった環境にこそ、目を向けるべきだ。乱用に至るには虐待や育児放棄などの家庭環境や、学校でのいじめなどの背景がある」(松本医師)

規制だけでは市販薬の乱用防止、さらにその克服は難しい。家族も含めたメンタルヘルスへの支援体制が不可欠だ。

『週刊東洋経済』2月15日号(2月10日発売)の特集は「信じてはいけない クスリ・医療」です。
井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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