市販薬の「大量服用」に依存する人の切実な実態 販売規制や啓蒙教育だけでは防止できない
「今考えると、寂しさを埋めるためでした。学校での人間関係に悩んでいましたが、親との関係も悪かったため、誰にも相談できませんでした。市販薬は簡単に手に入り、親にも言い訳をして隠しやすい」
厚労省の調査を実施した国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部部長の松本俊彦医師は、「市販薬乱用者には、うつ病などの精神疾患を抱えた患者が多い」と指摘する。
「生きづらさを抱えた若者が『死にたい』『いなくなりたい』という気持ちを和らげるために使う。一時的な元気の前借りだ。しかし、長期的には気分の浮き沈みが激しくなり、もともとあった精神疾患の治療も難しくなる」。
安価なものを求め種類も量も増えていく
同調査で最も多くの乱用があったせき止め薬「ブロン錠」には、麻薬と同様の鎮痛成分が含まれる。同じ成分を含む風邪薬「パブロンゴールド」も乱用が多い。これらの薬は、中枢神経を覚醒させる成分と鎮静させる成分の両方が含まれ、大量に飲むと高揚感や多幸感を得られるとされる。
鎮痛薬にも、覚醒成分と鎮静成分の両方を含むものが多く、乱用される傾向がある。乱用者はこのような成分を含む、より安価なものを求めて種類も量も増やしていく。
「体を慣らしながら飲む量を増やし、1日700錠飲んでいた患者もいる。薬をやめれば激しい離脱症状が現れるが、その症状は覚醒剤よりも苦しいといわれる。全身のだるさとともに身の置きどころがない焦燥感が起こるため、寝ることもできない」(松本医師)
しかも、市販薬は他の薬物に比べて依存性が強い。同調査で、市販薬は、「やめられない」「とまらない」という依存症候群が他の薬物に比べて最も多いことがわかった。
街を歩けばドラッグストアはいくらでもある。入手するためのアクセスがよいだけに、一度辞めても再発もたやすい。安全なイメージの強い市販薬だが、その先には非合法薬物と同様の深刻な依存が待ち受けている。
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