新型肺炎拡大で拭いきれない中国政府への疑念 中国全土が異例の対応に追われる状態が続く

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これらも裏を返せば、印象操作、情報操作ともいえるのではないか。

そもそも中国は、自国に都合の悪い情報は隠そう、あるいは操作しよう、場合によっては弾圧しようとする国なのだ。

2002年に広東省で発生したSARSも、当初、中国政府はその事実を隠蔽した。そのため、新しい生物兵器が研究施設から漏れ出した、とのうわさも広まったほどだ。

今回も、昨年12月の段階で、武漢市の医師8人が「(新しい)SARSが発症した」とグループチャットで警鐘を鳴らしたところ、「デマを流した」として武漢市公安局に処罰されている。つまり、新型肺炎の発生も当初は揉み消そうとしていた。

不都合な情報を隠そうとする体質への疑念

2015年のことだ。私は湖北省の隣の湖南省を訪れた際、地元警察に拘束され、取り調べを受けた経験がある。

湖南省では、急速な重化学工業化で土壌の重金属汚染が進み、2013年には湖南省から広州市に出荷されたコメから基準を超えるカドミウムが検出されて問題になった。

そこで現地をまわり、田園地帯の写真をとっていたところ、警察車両が現れて地元の警察署に連れていかれた。

そこから執拗な取り調べがはじまる。手荷物はすべて取り上げられ、カメラからスマートフォンの中まで検閲されて、データは消去。

「ここの土壌汚染を調査しにきたのだろう」

と、迫るものだから、さすがに、「写真を撮っていただけでは、土壌汚染の実態などわからない」と、言い返すと向こうは黙ったが、それでも、日本の報道機関から費用をもらって調査にきた”スパイ”だろう、としつこく迫る。

それを認めようものなら、同国の「反スパイ法」によって拘留されてしまう。取り調べは深夜にまで及んだ。そんな実体験がよみがえる。

湖南省の省都・長沙市では、2019年の7月から50代日本人男性がスパイ容疑で拘束されたままだ。中国に拘束されている日本人はこれで7人目になる。

その長沙の住人に、あえて聞いてみた。中国当局の発表する感染者数は信用できるのか、と。

「中国と日本とは違う。出てきた情報も本当はどうなのかわからない」

そう冷めて語った。もはや達観している。だから、TikTokを活用する。

中国政府は、武漢市内に昼夜問わずの突貫工事によって、わずか10日で新型肺炎専門の病院を作り上げた。そこには「中国全土から1500人の軍の医師が集結する」という。中国のすばらしさを見せつけるように、報道もこの対策事業を喧伝している。

だが、これもそうしなければならない事情があったからだ。

建設着工の当時から、急がなければさらなる非常事態になること知っていたからこそであって、そこには重大な情報が隠されていたのではないか。

武漢の新病院施設のすばらしさを誇張すればするほど、その疑念は膨らむ。そして、これからも、感染者・死者の発表数は増えていくはずだ。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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