新型肺炎拡大で拭いきれない中国政府への疑念 中国全土が異例の対応に追われる状態が続く

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本来であれば、大きく報じられるはずの災害についても、新型肺炎の爆発的な拡散がすべてを消し飛ばした。

そうした中で、WHO(世界保健機関)は1月30日(日本時間31日)に緊急委員会を開き「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言した。その1週間前の23〜24日にも緊急委員会を招集しているが、この時点では世界的な感染の拡大は生じていない「時期尚早」として、宣言を見送っていた。

その24日時点で中国国内の感染者は830人、死者が25人だった。その後の感染者の急増をみれば、宣言は遅かったのではないか、との疑念も浮かぶ。

ただ、WHOにとって「緊急事態」を宣言するにあたっては、慎重にならざるをえない、トラウマがある。

2009年の新型インフルエンザ(H1N1亜型)を対象とした宣言だった。当時のマーガレット・チャン事務局長は「今、すべての人類が脅威にさらされている」としてパンデミック(世界的大流行)を宣言。2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)を受けてからの「緊急事態」宣言の第1号となった。

ところが、新型インフルエンザは弱毒性であり、季節性のインフルエンザと大差のないことがわかると、事態は〝空振り〟に終わる。WHOが製薬会社と結託した「自作自演」ではないか、と疑われるまでになり、この世界的な批判が今回の早期宣言を見送った理由と、専門家の間ではささやかれている。

WHOに対する批判と中国政府”異例の”反省

しかも、今回の宣言はあまりに”中国寄り”との批判が出た。

WHOのテドロス事務局長は最初の緊急委員会の直後に中国を訪問し、習近平国家主席とも会談。そこで習近平から、「WHOが客観的に評価することを信じている」などと言葉をかけられた。

テドロス事務局長は宣言にあたって、「中国の対応も過去にないほどすばらしい。中国の尽力がなければ中国国外の死者はさらに増えていただろう」と言及。だとしたら、SARSの規模を超している現状はまだ軽いほうだ、ということになる。

さらに2月3日には、アメリカが中国全土への渡航中止勧告を出したように、中国から渡航する人の入国を禁止する国が相次いでいることに、事務局長が「(中国への)渡航や貿易を不用意に妨げる必要はどこにもない」と語って、批判が増している。

一方で、新華社によると、中国では同じ3日に習近平指導部が「今回明るみに出た、対応の欠陥や至らなかった点を教訓とし、緊急対応の能力を高めなければならない」と一連の対応に不備があったことを認めている。これは極めて異例のことで、感染拡大に伴って経済に悪影響が広がり、国民の不満が高まることに危機感を強めてのことだとも報じられた。

WHO事務局長が”中国寄り”な見解で持ち上げているにもかかかわらず、習近平指導部による”異例の反省”により矛盾が生じている。

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