2500年前の「論語」だからこそ学べる人間の本質 いつの世になっても変わらない身と心の正し方

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子曰く、躬(み)自から厚くして、薄く人を責むれば、怨みに遠ざかる。

「自分には厳しく、他人には寛大に。こういう態度で接すれば、他人から怨まれる心配はありません」

子曰く、これを如何(いかん)、これを如何と曰わざる者は、吾れこれを如何ともする末(な)きのみ。

「学ぶときにいちばん大切なことは、疑うこと、真実を知りたいという熱い思いです。『なぜ? どうして?』とつねに思わない人間に対しては、なにを言っても通じません。馬の耳に念仏ですよ。わたしがどんなに頑張ってもね」

議論の場で本質なんてなかなか出ない

子曰く、群居すること終日、言、義に及ばず、好んで小慧(しょうけい)を行う。難(かた)いかな。

「みんなで集まって議論をするとします。ただもう、みんな勝手に自分の意見を言うばかりで、他人の話なんか誰も聞いてはいません。しかも、どの意見も本質をついたものなんか1つもなく、どれもこれも枝葉末節(しようまっせつ)のつまらないものばかり。どうしようもないですね。でも、これ、わたしたちの社会のあらゆる場所で見かける光景なんですよ」

(そっ、そのとおりですよ。センセイの時代からまったく変わってないんです……)

子曰く、君子は義、以て質と為し、礼、以て之(これ)を行い、孫(そん)、以て之を出し、信、以て之を成す。君子なるかな。

「『君子』は、どういう行動をとればいいのか説明します。よく聞いてください。まず、社会正義を実現しようという思いを根本にしてください。でも、それだけではもちろんダメです。その『思い』を実行に移すときには、誰もが納得するようなやり方で行ってください。正しいことをするのだから、やり方はなんでもいいと思ってはいけません。実現するプロセス自体も重要なのです。

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さて、今度は、その実現のプロセスを別の角度から検証してみましょう。最初に『思い』を訴えるとき、気をつけてもらいたいのは、上から目線にならないようにすることです。謙虚に、恥ずかしそうに、ことばを選んで語りかけてください。

『正義』の悪いところは、こんなに正しいことをやってるんだから実行して当たり前と思いこんでしまうところでしょう。あなたの『正義』だけが正しいのではありません。あなたが説得したいと思っている人たちはみんな、じっとあなたの行動やことばを見ているのです。

そして、最後。『正義』やその『思い』を実行するとき、それまでのことばや行いとは異なったやり方にならないよう気をつけてください。これもよくあることです。最初にある政策を唱えたときとは事情が違うからやり方も変えるのは当たり前。それは正しいのかもしれません。

けれど、それはあなたにとっての正しさにすぎません。あなたをじっと見てきた人たちは、あなたのことばに疑いを持つでしょう。そうなっては、あなたは『君子』の資格を失ってしまうのです」

高橋 源一郎 作家

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たかはし げんいちろう / Genichiro Takahashi

1951年広島県生まれ。作家、明治学院大学名誉教授。横浜国立大学経済学部中退。81年『さようなら、ギャングたち』で群像新人長編小説賞優秀作となる。88年『優雅で感傷的な日本野球』で三島由紀夫賞、2002年『日本文学盛衰史』で伊藤整文学賞、12年『さよならクリストファー・ロビン』谷崎潤一郎賞を受賞。著書に『ぼくらの民主主義なんだぜ』『ゆっくりおやすみ、樹の下で』『たのしい知識 ぼくらの天皇(憲法)・汝の隣人・コロナの時代』『ぼくらの戦争なんだぜ』ほか多数。

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