テレビCMが「あまり見られていない」という誤解 人体認識技術による解析でわかる視聴態様
「当社のランキングはビデオリサーチさんとはずいぶん違うとよく言われます。われわれは視聴質なので、低視聴率で騒がれた大河ドラマ『いだてん』が上位に来たりします。見ている人は少なくても、長い時間注視されているということです。
また男女でもかなり違います。女性で1位の『あなたの番です』は、男性では20位にも入っていません。視聴率で見れば、実はそのクールのドラマの中では4位でした。ただあれだけ話題にもなり、皆さんの中ではもっと『見られていた』というイメージも強いのではないでしょうか。
実は当社の視聴質は、皆さんがなんとなく感じる『話題になっている』『ネットでバズっている』『みんながいいね!と言っている』という感覚と近いのです。テレビ東京さんの番組も視聴率は高くないがしっかり見られている。テレビ東京さんはこうした番組を視聴質で評価されだしています。広告主もちゃんと見ていて、その効果もトレースしているので、視聴質を使った評価が売買を助けると思います」(郡谷氏)
コラボCMの高い効果を初めてデータ化
視聴者がCM中に画面から顔をそらしてしまうのを、CMの内容で変えることもできる。フジテレビ2019年11月放送のアニメ「サザエさん50周年記念スペシャル」では、全スポンサーとのコラボCMが流された。例えば日清食品のCMではマスオさんが「どん兵衛」を食べ、日産自動車のCMではサザエさん一家が「セレナ」に乗った。このコラボCMが視聴者にどう見られたかが図3のグラフだ。
番組中の毎分のAI値の変化が折れ線、薄い灰色の帯がコラボCM、濃い灰色が通常版CMである。通常の番組ではCMになるとAI値は2割ほど下がるが、この番組ではコラボCMに入っても下がらないどころか逆に上がっている。しかし通常版CMになった途端、AI値は下がる。
「過去にもコラボCMはありましたが、その効果はよくわかりませんでした。しかしこの例のように効果をデータ化できれば、どれだけコストをかければいいのか、どのような効果が期待できるのかがわかります。
テレビ局と広告主が協力しなければできませんが、『やれば効果がある』と証明されたことが重要です。結果を検証し、次はもっとコストをかけてさらに大きな成果を出そうというように、PDCAが回せるようになります。当社のデータを使って、これまでわからなかった広告媒体としての価値を顕在化するだけで、テレビはすごく面白くなると思っています」(郡谷氏)
同社の調査は家庭のテレビにカメラなどの機器を設置しなければならないので、パネル数はまだ関東で800世帯、関西で100世帯。しかし今後はパネル数を増やし、他地域でのデータ提供も視野に入れているそうだ。
現在の調査対象局は関東では全キー局とTOKYO MX、NHKと民放のBS局で、ライブ視聴と録画視聴を調査している。技術的にはNetflixなどのOTTにも対応できるということで、テレビ放送がネットの動画配信サービスと同じ土俵で比較検討される日は遠くないのかもしれない。いちベンチャー企業が、メディアの王者として君臨してきたテレビにインパクトを与えるというのも、今の時代を象徴していると言える。
(月刊『GALAC』2020年3月号掲載記事を転載)
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