日本の有機農業がいま一つ広がらない構造要因 世界では売り上げ倍増、国の目標達成は遠い

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「小学3年生の子どもがいる。夫婦どちらかが倒れたらどうしよう、と思うことはある」。不安がないわけではない。しかし、「昨年の台風でリスク分散の必要性を感じた。歩いて回れる範囲で作業をしたいので1カ所で田畑をやっているが、別の場所にも畑を借りるなどやり方を変えないといけない」と前を向いて模索を続ける。

小川町環境農林課によると、小川町有機農業推進協議会の調査データがあり、有機農業産出額は2017年には1億2600万円。小川町全体の農業産出額のうち、ざっと11%を占めた。

ときのこやの前で、この10年を振り返る酒井さん(左)と中澤さん(河野博子撮影)

農家と行政が一緒になって経験ゼロから手探り状態で有機農業を始めたのに、今や学校給食を全量有機米で賄う地域もある。千葉県いすみ市だ。

「学校給食を全量有機米で」を実現した地域

発端は、コウノトリの郷で知られる兵庫県豊岡市の取り組みを太田洋市長が知ったことだった。コウノトリは戦後、農薬の普及や森林・里山の荒廃により生息数が激減。豊岡市では捕獲・人工飼育による保護増殖を始めた。1999年、兵庫県コウノトリの郷公園がオープン。地元農家は市とともに、無農薬無化学肥料によるコメ作りを目指して試行を繰り返し、「コウノトリを育む農法」を確立。

豊岡市の資料によると、ブランド米「コウノトリ育むお米」の市内総生産額は2005年の6000万円から2012年には3億7000万円へと増加。観光などを含む経済波及効果も、2005年の9000万円から2012年の5億8000万円へと拡大した。

いすみ市は、2012年に「自然と共生する里づくり連絡協議会」を設立。協議会の中の「農業連絡部会」で、「有機による稲作に取り組もう」ということになり、2013年にスタート。しかし、失敗に終わる。

翌2014年、NPO法人「民間稲作研究所」(栃木県上三川町、稲葉光圀代表)の技術指導を受けた。研究所による「ポイント講習会」を市のモデル事業として行い、その年に作付けした農家が成功。2015年、学校給食の一部に有機米を取り入れた。

翌2016年、太田市長が「学校給食を全量、市内で育った有機米で賄う」と宣言。2017年には、それが実現した。2018、2019年も全公立小、中学校(小学校9校、中学校3校)で全量有機米の給食が続く。加えて、今は7品目(ニンジン、コマツナ、タマネギ、ジャガイモ、ダイコン、ネギ、ニラ)で有機野菜を扱っている。

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