日本の有機農業がいま一つ広がらない構造要因 世界では売り上げ倍増、国の目標達成は遠い

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土地や農業の形態の違いもあるようだ。「ヨーロッパの農地の約3分の1は牧草地で、そこで有機による牧草作りや畜産・酪農が営まれている。直接食用の作物を育てる場合に比べるとハードルは低く、有機農業の取り組み面積は多くなる」。

「日本では、作物の見た目が曲がっていないか、色はどうか、虫や鳥に食べられた跡はないか、など市場に流通する際の規格がかなり厳密でやや過剰ともいえます。一般に消費者の好みが理由とされます。生産者と流通の力関係も影響しており、市場で価値が下がってしまうため、農家が積極的に農薬を使うことにつながっています」

流通構造も関係している

消費者の嗜好だけでなく、流通構造も関係しているようだ。どうすればいいのか。

欧州での行政や流通の取り組みに詳しい香坂さんは、少し考えてこう言った。「ヨーロッパでは、学校給食で出す取り組みが盛ん。オーストリアやドイツでは自治体がネットワークを作って、ノウハウや気をつけるべきポイントを冊子にまとめたりしている。スーパーや量販店の扱いも増えている。高級なスーパーや都市部の裕福なエリアにあるオーガニック専門スーパーだけではなく、一般の人、所得が高くない人が足を運ぶ量販店でも売っている。慣行農業による産物との価格差も縮まっている品目も多い」と話した。

そして、「学校や病院からスタートして、公共の場で出す食材を有機のもので出してみて、広げていくことが必要ではないでしょうか」と提案する。

インタビューに答える香坂教授(河野博子撮影)

なぜ有機農業を特別扱いするのか、という苦情が出そうだが、香坂さんは有機農業を普及させる意義をこう考える。

「有機農業は有機産品を作っているだけでなく、土壌、水質、生物の生息地など国土や自然環境を保全する効果もあるのです。でも人口減社会で担い手が減るなか、雑草対策や手間をかけた作業を行う農家は大変です。さまざまな支援が必要だと思います」

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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