日本の有機農業がいま一つ広がらない構造要因 世界では売り上げ倍増、国の目標達成は遠い
いすみ市農林課の鮫田晋さん(43歳)によると、有機農家は当初は3戸だったが、現在は25戸に増えた。有機米の収穫量は年70トン以上あり、うち42トンを学校給食で使う。2015年からは「いすみっこ」というブランド名がついて、地元のいすみ農協協同組合が販売。有機米は、通常のコメの1.5倍の値段が相場だが、給食費を値上げしなくて済むよう、一般会計から補填している。
農水省農業環境対策課によると、「給食のコメを全量有機米で」と打ち出したのはいすみ市が全国初。鮫田さんは「いすみ市がゼロからスタートしたことに希望の光を見た自治体は多かったようです」と話す。千葉県木更津市は昨年から、同様の取り組みを始めた。鮫田さんは、各地のシンポジウムなどに「いすみ市の経験を話してほしい」と招かれることもあるという。
2019年8月、「有機農業と地域振興を考える自治体ネットワーク」が、農水省農業環境対策課の呼びかけで発足した。現在、千葉県いすみ市、埼玉県小川町を含む20市町村が参加し、情報交換を進めようとしている。
有機農業の取り組みがいま一つ広がっていない日本。なぜなのか。有機農業を含む国内外の環境政策に詳しい名古屋大学大学院教授の香坂玲さん(44歳)に、聞いてみた。
「農家への何層もの支援の手が必要」と専門家
日本の有機農業推進法は、化学的に合成された肥料及び農薬を使用しない、そして遺伝子組み換え技術を利用しない農業のことを有機農業という。そうではない従来からの農業は「慣行農業」と呼ばれる。
「欧州の国々では農薬の使用への厳しいまなざし、アメリカ、中国では、慣行農業への不信感があり、消費者が有機農業による作物のほうが安心できる、だから余分にお金を出しても買いたいと考える傾向があります。
一方で日本の場合、消費者が慣行農業に比較的信頼感を持っていて、有機農業による作物の消費量がなかなか増えない、という流通関係者もいます。お茶については、とくに輸出向けのものでかなり有機の比率が高まっているなど、例外はあるのですが」。香坂さんはまず、消費者の嗜好の違いを挙げた。
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