有力視されているのは、武漢の市場で売買されていた野生動物からヒトへの感染だ。コロナウイルスは元来、ヒトだけでなく、動物間で感染するさまざまな型が存在する。それがまれに、ヒトにも感染することがある。さらに、感染したヒトの体内で変異が生じ、ヒト-ヒト感染を起こす新たな型となって大流行を起こしたのが、SARSやMERSだ。
SARSはハクビシン(推定)から、MERSはヒトコブラクダから、それぞれの動物のコロナウイルスが人へと感染したのが発端だ。さらに元をたどれば、コウモリに由来すると言われている。実際、今回の新型コロナウイルスの発生源と目される武漢の市場では、野生動物が山積みになって違法に売られていた、という話も聞く。
気になるのは感染力と、危険性の指標となる致死率だ。
WHOは1月23日の発表で、発症者の4分の1が重症、致死率4%としている。また、中国・国家衛生健康委員会当局は、国内の死者は1月30日の時点で累計170人、感染者は7711人と発表した。
ただ、中国当局が感染の全容を把握できている、あるいは、その発信する情報が全容を正しく反映している保証はない。
2002年11月に広東省でSARSが発生した際は、中国政府が当初その事実を隠蔽していた。最初に世界へ警報を発したのはWHOで、ようやく2003年3月のこと。しかも、香港やベトナムでの謎の肺炎が発生した、というものだった。WHOの調査チームは「国際社会は中国の統計をまったく信用していない」と糾弾した。最終的にSARSの終息宣言が出されたのは、2003年7月。最初の発生から8カ月もかかっている。それまでに8098人が罹患し、774人が亡くなった(WHOによる)。
懸念される「スーパースプレッダー」の存在
今回の新型コロナウイルス感染症でも、中国当局の発表とは異なる見方をしている人は多い。
米英の研究チームは、今年1月22日の時点では武漢だけで1万4464人が感染しており、年始から累計2万1022人が感染した見込み、との試算を発表した。武漢で確認されている感染者は、実際の感染者の5%に過ぎないという推測に基づいている。さらに、このままの割合で患者が増え続ければ、実際の武漢の患者数は1月29日には10万5077人(少なく見積もって4万6635人、多く見積もって18万5412人)に達するだろう、とした。
同チームは、1人の感染者が他者に感染させうる人数を3.11人と推定。WHOが1月23日に示した1.4~2.5人との予測を上回る。
さらに、感染力に関して懸念されるのは、「スーパースプレッダー」の出現だ。1人で数十人の他者に感染させてしまう感染者のことだ。SARS流行の際に初めて、発生から3カ月程度の時点で出現が確認された。ヒト-ヒト感染が進むうちに出現すると考えられ、その局面に入ると感染が一気に広がると見られる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら