子供の頃教わらなかった大人の世界の民主主義 多数決を機能させる「多様な意見の仕分け方」
第1象限と第2象限にまたいで描いているのは政治家である。彼らは、先述したように、選挙で勝利して政治家にならなければ意味がない。だから、選挙ではなりふり構わず勝とうとするから、短期的・ミクロ的な視点での利益を訴えて、次期選挙での得票率極大化を目指すこともあると、経済学の中では考えられている。
社会・制度の持続可能性への視界は狭いが、公共政策の知識は持っている人たちが属する第2象限に位置づけられるのは、組織化された団体である。彼らは制度の動きによって自らの利害(往々にして所得)が関係するので利害関係者ということもでき、圧力団体、利益集団と呼ばれることもある。ときに、これらの団体は自前のシンクタンクなども持っていて、調査・広報を担当する専門家を備える。
最後のプレーヤーは、民主主義の中では圧倒的多数を占める一般の投票者からなる、未組織な有権者の存在であろう。彼らが、次の選挙での勝敗を左右する「世論」を形成することになる。ちなみに、アメリカの経済学者ゲーリー・ベッカー(1930~2014年)が考案した、政治影響力関数には、変数として、圧力団体が世論に影響を与える「資金力」は入っているが、投票者としての影響力、すなわち構成員の人数は入っていない。
初めて見た30年ほど前には驚いたが、ベッカーが言う「投票者の選好は利益集団が提供する情報を通じて操作され、創出されうる」との話に、今では不思議と世の中はそういうものだろうと思えたりもする。
民主主義におけるプレーヤー間の関係
次にそれぞれの関係を見てみよう。官僚や一部のメディアは、選挙を左右する未組織有権者に情報発信をすることによって、いわゆる「啓蒙活動」を展開する。また、財政や社会保障政策に関して、長期的・マクロ的な視点からやるべき政策を課題として持つ官僚は、政治家や組織化された団体に新たな政策の必要性の説明と説得を重ね、社会・制度の持続可能性を高めるための政策をなんとか進めようとする。
一方、組織化された団体は自らの利益を求めて、ときにレントシーキング(団体が自らに都合がよくなるように規制や制度を変更させることで利益を得ようとする活動)、ロビイングを行い、さらに政治家への選挙協力を行うこともある。のみならず、アメリカのロビイストには、スピン(情報操作)を担う専門家がいたりもする。
スピン専門家の生態を暴いたアメリカの映画『サンキュー・スモーキング』のパンフレットは、「スピンとは『世論に都合のよい影響を与えるため、偏った解釈を加えたり歪曲した状態で情報を流したり、他者の発言や行動をそのように解釈すること、そのようにして提供された情報』と辞書にある」と書いている。日本でも似たような役割を担う人はいる。
ここまで話した、理念型としての民主主義モデルを図示しておこう。
組織化された団体が、未組織有権者にキャンペーンを展開している矢印を描いている。民主主義社会においては、「合理的無知」であることを選択した有権者の耳目にまで情報を運ぶコストを負担できる者、すなわちキャンペーンコストを負担することができる者が多数決という決定のあり方に影響力を持つことができる。選挙を左右する未組織有権者を、キャンペーンという情報戦で動かすことができるからである。
そして、そのキャンペーンコストの負担力は、普通は財力に強く依存する。資本主義社会の下で財力を持つ集団は経済界であるから、民主主義というのは、本質的に、経済界が権力も持ちやすく、そこでなされる政策形成は経済界に有利な方向にバイアスを持つことになりがちである。
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